2007 年のなんでもセミナー


12 月 13 日:西本将樹氏『曲線上の点の高さについて』

代数的数(やその組)の複雑さを表す量として,次数の他に「高さ」という量があります.これは数に対して0以上の実数を対応させるもので,和や積に対して良いふるまいをする(数同士の和や積の高さが元の数の高さで評価できる)ため代数的整数論における評価において基本的な量の1つです(定義はセミナー中で行います).

今回紹介するのは,1992年に示されたZhangの定理というもので,大まかに言えば

多変数方程式を満たす点の高さには正の下界がある.さらにその下界は定義方程式の係数体の次元,方程式の高さ(係数の組と思い定義する)と次数のみによってexplicitに定まる.(存在が分かるだけでなく原理上求められるということ)

というものです.(いくつかの例外的な点を除く必要はあります)

予備知識としては簡単な代数的整数論を知っていれば十分です.


11 月 29 日:佐野太郎氏『特異点解消入門』

前回の続きです。次回で最後です。


11 月 22 日:佐野太郎氏『特異点解消入門』

前回の続きです。予定を延長させていただきまして、あと2回話す予定です。


11 月 15 日:佐野太郎氏『特異点解消入門』

代数多様体Xに対し閉部分多様体Zに沿ったブローアップという別の多様体YからXへの双有理射があります。これはZの外で同型射になっており、広中の特異点解消定理から任意の複素代数多様体Xの特異点は特異集合に含まれる閉部分多様体のブローアップを繰り返すことで解消されます。特異点の性質を見るための一つの方法としてこの特異点解消を見るというのがあります。

今回の発表では複素2次元正規特異点を主に扱います。まず1回目に具体的な例で特異点解消をして、2回目にLC2次元正規特異点の最小特異点解消の様子を見たいと思います。おそらく1回目は本当に具体例の話だけだと思うので、予備知識は特に必要ありません。適宜補足する予定です。ではよろしくお願いします。


11 月 8 日:阿部紀行氏『Coxeter系を知ろう』

Wを群とし,Sをその生成系で,Sの元は全て位数2を持つとします.Sの元s,s'に対し,m(s,s')をss'の位数とします.Wが生成元がS,関係式 (ss')m(s,s') = 1 により表示される時,(W,S)をCoxeter系といいます.典型的な例としては,今年の10/4, 10/11に行われた栗林氏のセミナーに登場したfinite reflection groupや,適当なroot系に付随するWeyl群などがあります.

今回は,Coxeter系に関するいくつかの性質を紹介したいと思います.目標としては,Bruhar orderというW内の順序を定義し,対称群の場合にその判定法を紹介することとしますが,まっすぐにそこに向かうのではなく,色々な性質を紹介しつつ進みたいと思います.


11 月 1 日:近藤宏樹氏『無限次元Lie代数へようこそ(3)』

前々回前回の続きです。今回で完結します。


10 月 25 日:近藤宏樹氏『無限次元Lie代数へようこそ(2)』

前回の続きです。結局計3回話すことになりそうです。


10 月 18 日:近藤宏樹氏『無限次元Lie代数へようこそ』

Lie代数(適当な条件を満たす二項演算が定まったベクトル空間)の理論のうちでも最も基本的かつ美しい結果として、(標数0の代数的閉体上の)有限次元半単純Lie代数の分類があります。これはLie代数のルート分解を用いて、半単純Lie代数の同型類と次を満たす行列(aij)が一対一に対応するというものです:
(i) aii=2、i≠jのときaijは負の整数。
(ii) aij=0ならばaji=0。
(iii) (aij)(の対称化)は正定値である。

一対一の対応があるからには上を満たす行列からLie代数をつくる手続きがあるわけです。そこで、行列に課された上の条件を緩めると、新たなタイプのLie代数が得られることになります。これがKac-Moody Lie代数であり、無限次元のLie代数ながら有限次元の場合と似たような性質を持っていることが導かれます。これらの性質の無限次元ならではの応用もあり、色々と楽しい世界が広がっていくのです(発表者も多くは知りませんが)。

今回のセミナーでは、Kac-Moody Lie代数の定義から始めて上記の性質の一つである可積分最高ウェイト加群の指標公式を導き、それを最も簡単な場合に適用すると形式的巾級数に関する有名な等式が得られることを見る、というのを目標にしようと思います。

発表は2回ないし3回連続で行う予定です。予備知識は線型代数(狭い意味、つまり体上のベクトル空間の理論)およびLie代数の基本的な用語(部分代数、イデアル、表現など)とします。後者については例えば
J. E. Humphreys, Introduction to Lie Algebras and Representation Theory, GTM9, Springer
の最初の方などを参考にすれば問題ないと思いますが、必要ならば当日K会に早め(30分程度)に来ていたければ補足説明をしようと思います(ただし「本当に」知らない人に限ります)。若い人もぜひ気軽に聞きに来てください。


10 月 11 日:栗林司氏『finite reflection groupの話(2)』

前回の続きです。

前回の結果を使って、finite reflection groupに対しCoxeter graphというものを定義し、それを使って分類を行います。今回が最後の予定です。


10 月 4 日:栗林司氏『finite reflection groupの話』

Vをn次元Euclid空間とします。Vの0でない元aに対し、saを次のような線形変換とします。
・aを-aに移し、0を通りaに垂直な平面上の点は動かさない。

このようなものをreflectionということにします。finite reflection groupとは、いくつかのreflectionから生成される、直交群O(V)の有限部分群のことを指します。例えば、n=2の場合、0を中心とした正方形をそれ自身に移すような直交変換全体は、回転とreflectionからなる位数8のfinite reflection groupになります。

今回のセミナーではこの群の性質を調べ、最終的には分類することを目標とします。発表回数は2回の予定で、第1回はpositive system,simple systemなどの概念を導入して基本性質を証明し、第2回はCoxeter graphというものを使って分類を行う予定です。

予備知識は、群の初歩と線形代数の初歩程度です。皆さんの参加をお待ちしています。


9 月 27 日:松本雄也氏『篩法の話 (3)』

今回が最後です.

前回示した定理(Brun の篩)の応用をいくつか話します.具体的な内容は以下を予定しています.

・双子素数は x までに cx/(log x)2 個以下しか存在しない.
・"双子素数もどき" が x までに cx/(log x)2 個以上存在する.
・ある k が存在し,すべての自然数は高々 k 個の素数の和で書ける.


9 月 20 日:松本雄也氏『篩法の話 (2)』

前回の続きですが,論理的なつながりはほとんどありませんのでこの回から来ても問題はありません.

今回は「Brun の篩」を説明し,その応用として n, n+2 の素因子が 7 個以下であるような n ("双子素数もどき")が x までに cx/(log x)2 個以上(とくに,無限個)存在することを示します.

なお,全 3 回やることになりましたが,第 3 回の内容は未定です.


9 月 13 日:松本雄也氏『篩法の話』

自然数からなる有限集合 A および(各素数 p に対し)その部分集合 Ap が与えられているとします.いくつかの素数 p に対し,A の元のうち Ap に属するものを取り除く("篩にかける")という操作を行い,取り除かれずに残ったものの個数を評価するのが篩法の主題です.

(例:有名な「Eratosthenes の篩」)
A = { n 以下の自然数全体 }, Ap = { A の元で p で割れるもの全体 } とし,\sqrt{n} 以下のすべての素数 p について篩にかけると,残るのは \sqrt{n} 超 n 以下の素数のみとなります.

この例から推察されるように,篩法は素数(ないし,素数に近い数)に関する問題で力を発揮します.

今回の発表では Eratosthenes の篩(上で述べたものの一般化)および Brun の篩について説明し,それらの応用として
(1) 双子素数はある程度以下しか存在しない.(*1, *2)
(2) "双子素数もどき" はある程度以上存在する.(*3, *4)
を証明することを目標とします.(予定では (1) が 1 回目の発表で,(2) が 2 回目以降で証明されます.)

(*1) p が双子素数であるとは,p も p+2 も素数であること.
(*2) 「ある程度」 とは「x (log log x)2 / (log x)2 のオーダー」
(*3) "素数もどき" とは「素因数を重複こめて高々 7 個しかもたない数」
(*4) 「ある程度」 とは「x / (log x)2 のオーダー」

(ちなみに双子素数は x / (log x)2 のオーダーで存在すると予想されていますが,無限個存在するか否かも未だ証明されていません)

予備知識は高校程度の微積分と若干の初等整数論のみです.発表回数は 2 回以上 3 回以下の予定です.皆さんの参加をお待ちしています.


7 月 12 日:入江慶氏『ネヴァリンナ理論と微分幾何』

ネヴァリンナ理論とは、有理型関数、すなわち複素平面からRiemann球面への正則写像の値分布を記述する理論です(以前西本君のセミナー(2006.11.2)で扱われたのを覚えている方も多いと思います)。

今回のセミナーでは、微分幾何の手法を用いてネヴァリンナ理論を一般化し、幾何学的な理解を与えたChernの仕事を紹介したいと思います。

予備知識は初歩的な複素解析と多様体論(学部で習う「複素解析I」と「幾何学I」くらい)です。微分幾何の知識についてはセミナーのはじめに簡単に扱う予定です。


7 月 5 日:西本将樹氏『Schmidt's subspace theorem(続き)』

前回までの続きです.今回で終わりにする予定です.


6 月 28 日:西本将樹氏『Schmidt's subspace theorem(続き)』

前回の続きです.placeやheightの定義,主定理の主張を復習した後,いよいよ主定理の証明に入っていきます.

証明を細部の計算まで全てを完全にfollowするのはやや大変で,かえってどのような議論が行われたかが分かりにくくなると思われるので,全てを完全に実行するということはしません.所々詳細な議論は省略して,全体としての証明までの流れがなるべく分かるようにしたいと考えています.

最初に必要な定義等は大まかに復習する予定ですし,特に一連の議論の途中からというわけでもないので,前回来ていなくても特に問題は生じないと思います.


6 月 21 日:西本将樹氏『Schmidt's subspace theorem』

ある代数的数の別の代数的数による近似を,Diophantus近似といいます.最も単純な場合が,代数的数αを有理数p/qにより近似する場合です.勿論分母を大きくしていけばいくらでも精度の良い近似は可能ですが,分母の大きさと近似の精度の限界には次のような関係があることが知られています:

任意のε>0に対して,
|α- p/q|<q-2-ε
となる有理数 p/q は高々有限個である.

この定理はRothの定理と呼ばれ,その証明は1年半ほど前のなんでもセミナーで扱いました(なお,指数-2-εは-2には置き換えられず(連分数による近似等を考えれば分かる),この形の不等式の中ではRothの定理は最良の評価を与えています).

Rothの定理の拡張には次のような方向性が考えられます.
・有理数ではなく,一般の代数体で同様の問題を考える.
・αを2つ以上の数の線型結合で近似する.
・「近さ」をはかる際に,通常の絶対値だけでなく,色々な付値を考える.
・同じ変数でいくつかの不等式を同時に近似できるかを考える.

これら全ての拡張に成功したのが今回のセミナーで扱うsubspace theoremです.大まかな主張は,
ある体K上の独立な複数のn変数1次式の積が,代入する元の「複雑さ」に比べて同時に「小さく」なることはほとんど起きない
というものです.(「複雑さ」とは有理数 p/q の分母qに対応するものであり,代数体の元のHeightとして定式化されます.また,「小さい」というのは式ごとに様々な付値で考えることができます.)

この定理の大まかな証明および応用例の紹介が今回のセミナーの目標です.発表は複数回にわたります(3回は超えないと思います).初回は,代数体上の付値やHeightに関する基本的な事柄を準備して主定理を述べた後,証明に入る前にその応用例をいくつか紹介しようと思います.証明は主に来週以降に扱うことになると思います.

予備知識としては,代数的整数論の初歩を知っていれば十分だと思います(代数体,ガロア群,ノルム,p進体などの言葉を聞いたことがあれば十分な程度だと思います).では,皆様の参加をお待ちしております.


6 月 14 日:佐野太郎氏『代数曲面論入門』

反標準因子-KXが豊富な代数曲面Xはdel pezzo曲面と言われます。これは閉体上だとP2またはP1×P1またはP2r点blow upしたもの(r=1〜8)のどれかになることが知られています。このうちP2を一般の位置にある6点でblow upしてできる曲面はP3に3次の超曲面として埋め込まれます。逆にP3の中の3次の超曲面はそういう曲面しかないことが示されます。今回はこの話題について話したいと思います。前回の内容とは独立している内容ですし、必要な知識は説明しようと思うので前回来られなかった方も是非いらしてください。ではよろしくお願いします。


6 月 7 日:佐野太郎氏『代数曲面論入門』

今回のセミナーでは複素数体上の滑らかな2次元射影的代数多様体(以下、曲面と略す)を扱います。これらの大まかな分類は19世紀後半から20世紀の前半にかけてイタリア学派と呼ばれる人々によって行われました。そこで使われる最も基本的な定理の一つに、Castelnuovoの収縮定理があります。これは曲面上に自己交点数が-1の曲線であって射影直線P1と同型なものが存在する時、その曲線だけをつぶして新たな曲面を得るというものです。曲面の分類を行うにあたってこの(-1)曲線をつぶして極小曲面を得るというのが分類の出発点になります。

まず初回はこのCastelnuovoの定理の証明を目標として基礎的な部分の導入とします。

2回目はそれとは独立した話だと思いますが、射影空間P3の中の滑らかな3次の曲面はDel pezzo曲面と言われる具体的な曲面しかないことを示すのを目標にする予定です。代数幾何の知識を全て初めから解説するのは難しいと思いますが、できるだけ必要に応じて準備したいと思います。が、アイデアはすでにイタリア学派の時に出来ていたものなので、予備知識がなくても伝わるものは多いと思います。では、よろしくお願いします。


5 月 31 日:萩原啓氏『一歩踏み込む"初等的"二次形式論(3)』

おそらく今回が最終回です。Pfister形式の性質について簡単に考察した後、Elman-Lamの定理の証明について解説する予定です。また、Milnor予想に関するOrlov-Vishik-Voevodskyの仕事について多少触れようと思います。二次形式論の諸定義・定理、Milnor予想のステートメントについては必要に応じて復習するつもりです。


5 月 24 日:萩原啓氏『一歩踏み込む"初等的"二次形式論(2)』

前回の続きです。Cassels-Pfisterの定理、第2・第3表現定理やその応用を中心にお話しします。先週の話題とはだいぶ独立していますし、前回登場した定義・定理の内今回必要となるものについては復習するつもりですので、この前参加できなかったという人も奮ってご参加下さい。


5 月 17 日:萩原啓氏『一歩踏み込む"初等的"二次形式論』

John Milnorは、1970年の論文"Algebraic K-theory and Quadratic Forms"(代数的K理論と二次形式)に於いて、現在Milnor予想と呼ばれている2つの予想を提示しました(注)。

一つは代数的K理論とGaloisコホモロジー(エタールコホモロジー)論との関係についての予想、もう一つは二次形式論と代数的K理論との関係についての予想でしたが、これらは約30年の紆余曲折を経た末に、それぞれVoevodsky(1996)、Orlov-Vishik-Voevodsky(2001)に於いて混合モチーフ理論、A1ホモトピー理論等の高度に抽象的且つホモトピー代数的な理論の誕生によってついにその終止符が打たれました。

一方、Arason-Pfisterの定理やCassels-Pfisterの定理を始めとする抽象代数的二次形式論はWittの1937年の論文"Theorie der quadratischen Formen in beliebigen Koerpern"(任意の体に於ける二次形式の理論)以後確実に、そして今尚その発展を続けてきています。この伝統的な流れはVoevodskyの理論の登場と共にその意義を失ったものでは決してなく、寧ろその抽象的理論を価値あるものとする為、具体的側面から補うもの(の一つ)といえるでしょう。それは、(後者の)Milnor予想の部分的解決を純代数的手法から行ったElman-Lamの定理がOrlov-Vishik-Voevodskyの論文に於いても決定的な寄与をしていることからも窺い知れます。

以上を踏まえ、今回は純代数的な二次形式論の諸定理の紹介をしたいと思います。Milnor予想のステートメント及びElman-Lamの定理の証明を一応の目標としますが、Arason-Pfisterの定理、Cassels-Pfisterの定理や第1〜第3表現定理等についても触れる予定です。これらはElman-Lamの定理の証明に必要というだけでなくそれ自体二次形式論の粋を集めたというに相応しい大変深く面白い定理だと思います。 また、Orlov-Vishik-VoevodskyによるMilnor予想の証明の概略についても述べる予定です。

尚、今回は1つの定理を除き全て初等的証明が与えられる予定ですので、予備知識としては、学部生程度の代数学の知識があれば十分です。また、以前の何でもセミナーで似たタイトルで行ったのとは独立の話です。

注:実はもう1つ予想を提示しているがそれは翌年に解決(前述のArason-Pfisterの定理による)。


5 月 10 日:今井直毅氏『四元数環の話』

体k上の単純環は、あるk上の斜体Dの行列環と同型になり、このDをその単純環に属する斜体と言います。k上のBrauer群とはk上の中心的単純環全体を属する斜体が同型であるという同値関係で割ったものです。

Brauer群の定義はこのように非常に代数的なものですが、このBrauer群とSeveri-Brauer varietyという幾何的な対象の間には名前以外にも密接な関係があることが知られています。

今回のセミナーではその最も簡単な例としてk上の四元数環とそれに付随するconic curveの関係について話そうと思います。四元数環の定義から話そうと思うので予備知識は学部3年の授業でやる代数程度で十分だと思います。


4 月 12 日:三枝洋一氏『p 進簡約代数群の表現論がわかりたい (1)』

F を非アルキメデス局所体(例えば p 進体),G を F 上の簡約代数群(例えば GLn)とし,G(F) をまた G と表すことにします.G の表現論は保型形式やガロア表現とも関係する興味深いものであり,現在でも活発に研究が行われています.

今回のセミナーでは,この群 G の表現論の最も基本的な部分を紹介したいと思います.まず smooth 表現,admissible 表現と呼ばれる表現の基本的なクラスを定義し,それらが (quasi-)cuspidal 表現という種類の表現から生まれる(誘導表現の部分表現として実現される)ことを証明します.これによって,G の表現論を調べるには cuspidal 表現を分類し,誘導表現の既約分解を調べればよいことになります.

セミナーは少なくとも 2 回行う予定です.セミナーの進み具合に合わせて,GLn の場合の cuspidal 表現の構成方法や誘導表現の既約性などについても触れたいと思います.ここに書いた以外のトピックも扱いたいと思っていますが,またの機会になるかもしれません.

予備知識は線形代数と位相空間論です.p 進的な位相に慣れているとよいと思います.代数群については簡単に説明を行う予定です.ステートメントは一般の簡約代数群で書く予定ですが,証明は全て GLn (およびその直積)に対して行うので心配は無用です.

また,もしかしたら簡単な代数幾何を使うかもしれません.


3 月 8 日:野沢啓氏『リーマン葉層構造の構造定理』

一回目ではリーマン葉層のいくつかの同値な定義を紹介し、基本的な例を出しました。

今回はいよいよその構造定理を示します。この定理により、リーマン葉層の葉のトポロジーや葉空間のことはある程度までは良く分かるようになります。その証明は一度知れば実行するのは簡単ですが、微分幾何、位相幾何のいくつかの道具を鮮やかに使うもので楽しめると思います。

上述の通り一回目は定理の証明に入っていなかったので、来なかった人も聞ける発表になります。是非来て下さい。

参考文献:
I. Moerdijk and J. Mrčun, Introduction to Foliations and Lie Groupoids, Cambridge University Press, Cambridge, UK, 2003. MR2012261


3 月 1 日:野沢啓氏『リーマン葉層構造の構造定理』

葉層構造とは多様体上の幾何構造の一種で、およそ多様体の部分集合へのdisjoint unionへの分割であって分解が多様体の各点の小さい近傍でユークリッド空間の自明な積み重なりをなしているものです。disjoint unionの各成分は葉と呼ばれます。(ミルクレープを葉層構造と思うなら、その中の一枚のクレープが葉)

タイトルにあるリーマン葉層構造とは、およそ葉層構造であってその葉全体のなす空間がリーマン計量を持つようなもののことです。もう少し正確には、多様体上の葉層構造であって、多様体上のリーマン計量であって葉に沿って動かしても不変になっているものを持つようなもののことです。

すぐ思いつくような葉層構造の多くはリーマン葉層構造になりますが、実はリーマン葉層構造を多様体上のあるファイバー束に持ち上げると簡明な構造を持つ葉層構造に分解できることが知られています。(Molinoの構造定理、Molino理論)

この発表では、このMolino理論と呼ばれるリーマン葉層構造の構造定理を紹介します。発表は二回に分けて行います。
一回目:葉層構造の定義、例の紹介、いくつかの葉層構造のクラスについて、Molino理論の主定理の紹介
二回目:Molino理論の証明
の予定です。

多様体論の基礎的な知識(ベクトル場、微分形式、ファイバー束)を仮定します。葉層構造の基本的なところから始め、葉層構造を知らなかった方にもこんな幾何的対象があったのかと思って頂けるような発表をしたいと思います。是非聞きに来て下さい。

参考文献:
I. Moerdijk and J. Mrčun, Introduction to Foliations and Lie Groupoids, Cambridge University Press, Cambridge, UK, 2003. MR2012261


2 月 22 日:伊藤哲史氏『等差数列の個数について』

一般項が ak = kα + β という形で表される数列を等差数列といいます.与えられた集合内に,非自明な等差数列がどの位存在するかは,基本的でありながら非常に難しい問題で,最近になっても活発に研究されているようです.

最近得られた華々しい結果としては,2004年に B. Green と T. Tao が証明した定理
素数だけからなる等差数列で,任意の長さのものが存在する
があります(その業績もあって,Tao は2006年にFields賞を受賞したのは,ご存知の通りです).例えば,5, 11, 17, 23, 29 は,素数からなる長さが5の等差数列です.(35 は素数ではないので,この等差数列は長さ6には伸びません)

今回の「なんでもセミナー」では,等差数列の個数についての結果を,いくつか紹介したいと思います.知っていても,実生活では役に立たないけど,ちょっと得した気分になれるかもしれません.予備知識としては,等差数列の定義と,素数の定義位しかたぶん仮定しないので,どなたでも気軽に聞きに来てください.

覚えている人もいると思いますが,約一年半前(2005年9月)に河口湖で話したことの続きのつもりです.当初の目論見では,今回は,Green-Taoの定理の証明をやるつもりだったのですが,どうやら,準備が間に合いそうもない気がしてきました.ひょっとしたら,一年半前と同じようなことしか話せないかもしれないので,一年半前のことを覚えている人は,忘れてから来てください.

参考 :
http://www.math.ucla.edu/~tao/preprints/acnt.html


2 月 15 日:阿部紀行氏『Whittaker modelの次元について』

今回の続きです.目標の話題であった重複度1定理を示します.時間があれば周辺の話題についても述べたいと思います.


2 月 8 日:阿部紀行氏『Whittaker modelの次元について』

保型形式に対し,そのFourier展開を考えることが重要であることはよく認識されています.このFourier展開の表現論的な解釈はWhittaker modelと呼ばれます.Whittaker modelに関しては,「重複度1定理」が知られています.これは,既約表現の「緩増大」なWhittaker modelが1次元しかないことを主張するものです.今回は,この重複度1定理を群がSL(2,R)の場合に示したいと思います.(一般の群でも全く同様に通用する証明です.)また,時間に余裕があれば,周辺の話題についても話したいと思います.


2 月 1 日:栗林司氏『M.Rieszの定理』

今回のセミナーでは、双線形形式i=1j=1 aij xi yjの上界、最大値に関することを話します。まずある領域で有界な双線形形式というものを定義し、いくつかの性質を示した後、最終的な目標として次のM.Rieszの定理を示します。

領域
i=1m |xi|1/α ≦ 1
j=1n |yj|1/β ≦ 1
における双線形形式Aの最大値をMα,βとする。ただしα=0またはβ=0の場合には領域を定義する不等式をそれぞれ|xi|≦1または|yj|≦1に置き換える。このとき log Mα,βは三角形
0≦α≦1, 0≦β≦1, α+β≧1
において凸である。(ここで凸というのは、この領域に任意に二点を取ったとき、その二点を結ぶ線分上で関数が凸であることを意味します)

この定理は、Fourier級数に関する重要な応用をもちます。時間があればその応用も紹介したいと思います。


1 月 25 日:山下温氏『Slender な加群について』

環 R 上の加群 N および Mλ (λ∈Λ) に対して,定義により自然な同型
HomR (∑ Mλ, N) = ∏ HomR (Mλ, N)
(但し ∑ は直和,∏ は直積)が存在しますが,ここで直和と直積を入れ換えた
HomR (∏ Mλ, N) = ∑ HomR (Mλ, N)   (*)
もしばしば成立するということは,意外と知られていないかもしれません.例えば,Λ が可算で R=N=Z (整数全体)の場合は(Mλ については何の仮定もなしに)同型 (*) が,それも自然な同型写像によって成立するのです.

一般に,R 上の加群 N が slender とは,Λ が可算のとき任意の Mλ に対して自然な同型 (*) が存在することをいい,環 R が slender とは,R 自身が slender な R 加群をなすことをいいます.上で述べたことは Z が slender な環であるということです.

♪MENU(予定)
・slender 加群の諸性質
・Z の slender 性の証明
・PID が slender な環であるための必要十分条件

この概念は代数学よりもむしろ集合論の立場から研究されてきました.深い背景について私は熟知しているわけではありませんが,次のサイトが手掛かりになるかもしれません.
http://www.logic.info.waseda.ac.jp/~eda/info/study-j.html

参考文献は
Paul C. Eklof and Alan H. Mekler, "Almost Free Modules, Set-Theoretic Methods (North-Holland Math. Library)"
です.

気軽に聞きにきてください.


1 月 18 日:近藤宏樹氏『Conway群とその単純性』

前回のセミナーで構成したLeech格子を用いて、散在型単純群の1つであるConway群・1(dot 1)を定義し、その単純性を証明します。前回のセミナーの内容で今回用いる部分はセミナー冒頭で復習する予定です。


1 月 11 日:近藤宏樹氏『Steiner系とLeech格子』

昨年7/6のセミナーで構成した(5,8,24)型のSteiner系という組合せ論的対象を用いると、Leech格子という特殊な性質を持つ格子を構成することができます。Leech格子とは、
「n次元Euclid空間に同じ大きさのn次元球をできるだけ密に充填するにはどうすればよいか」
という問題の探究から生まれたもので、
「ランク24のeven unimodular格子であって、x・x=2なる元を持たないもの」
という特徴付けを持ちます。一般に、格子があると格子点を中心とする球による空間の充填を考えることができますが、Leech格子はその性質から、原点との距離が最小である(0でない)格子点が非常にたくさんあるので、そのぶん密な充填を達成できるというわけです。

今回のセミナーでは、
1. (5,8.24)型のSteiner系を用いてLeech格子を構成し、
2. 逆に上の特徴付けを満たす格子から(5,8,24)型のSteiner系が作れる
ことを示そうと思います。前のセミナーから思いのほか間が開いてしまったので、Steiner系の定義などから発表を進める予定です。したがって、Steiner系に関する事実(前回のセミナー)の他、2次形式や保型形式に関する事実(上の2.に結果のみ用います)を認めれば特別な予備知識は必要としません。

なお、発表は2回連続で行い、次のセミナーではLeech格子の自己同型群として得られるConway群について話す予定です。