2006 年のなんでもセミナー


12 月 14 日:松本雄也氏『2次形式の局所と大域』

前回の続きです.

前回は 2 次形式に関する Siegel の定理を紹介しました.今回は,まず代数体上の(連結簡約線形な)代数群の玉河数を定義し,次に SO(n) (n \geq 3) の玉河数が 2 であることから Siegel の定理が導かれることを証明し,残りの時間で玉河数が 2 であることの証明(またはそのスケッチ)を与える予定です.

位相群,代数多様体,adele を多少知っていると聞きやすいと思います.


12 月 7 日:松本雄也氏『2次形式の局所と大域』

(主に整係数の)多変数 2 次形式に関して話します.

あらすじ:

1. Intro:
まず次の問題を考えます:
S, T をそれぞれ n×n, m×m の \Q 係数対称行列とするとき,「X'SX = T となる \Q 係数行列が存在する」(ただし X' は X の転置,\Q は有理数体)ことと,『すべての素数 p に対する p 進体 \Q_p および 実数体 \R において X'SX = T をみたす X が存在する』は同値であることが知られています(Hasse の local-global principle の一例).2 次形式は対称行列 S を用いて x'Sx と書けることに注意すると,この定理は m = 1 の場合は 2 次形式による数の表示に関する結果となり,n = m の場合は 2 次形式どうしの同値に関する結果となります.
2. Siegel:
さて,上の問題において \Q を有理整数環 \Z で置き換えると,もはや『 』は(\Q_p を \Z_p で置き換えても)十分条件ではなくなります.しかし Siegel は,X'SX = T となる
【 mod p^n での解 X の個数 】
【 \R での解 X 全体の体積 】
といった(local な)値と,\Q での変換に関する(global な)値との間に関係式が成り立つことを証明しました (1930 年代).
3. Tamagawa:
さらに玉河は,この定理(の S=T の場合)が,T に関する直交群 SO(n, T) の玉河数(adele 線形群を用いて定義されるある値)が 2 であることに相当していることを示しました(1960 年代).

p 進数,代数多様体,素点と adele,Haar 測度などについて,定義ていどを知っておくと聞きやすいかもしれません.とはいえ難しいことは使わないのでご安心ください.

あまり(/ほとんど/まったく?)証明のないセミナーになる予定です.どうぞお気軽にお聞きください.


11 月 30 日:荻原哲平氏『Martingale』

前回の続きです.martingaleに対する様々な結果の基礎となっている,任意抽出定理とDoobの不等式を証明したあと,submartingale収束定理を証明して応用例を少し見たいと思います.


11 月 16 日:荻原哲平氏『Martingale』

確率論におけるもっとも基本的な定理で,独立同分布の確率変数のn個の和をnで割ったものがその平均にn→∞で概収束するという,大数の法則があります.この定理は,雰囲気としてはコインを何回も投げ続けると表の出る回数は全体の半分に近づくという感じの,直感的にすぐ成り立ちそうとわかるような定理です.しかし,この定理における独立性の仮定などはもう少し弱められることがわかり,martingaleと呼ばれるものに関し,類似した結果であるsubmartingale収束定理を得ることができます.martingaleは他にも良い性質がいろいろ成り立つため,確率論ではマルコフ過程と並んで,最も重要な確率過程のクラスとして位置しています.

今回のセミナーでは,martingaleを定義してその性質を見たあと,submartingale収束定理を証明したいと思います.予備知識としては,一般の測度空間の積分の定義と収束定理ぐらい知っていれば十分です.


11 月 9 日:尾高悠志氏『トーリック多様体(1)』

僕はトーリック多様体の話をします.

Demazure(仏)の論文,Mumford(et.al,米)の講義等を機に,世にこの図形が産声を上げて数十年.代数多様体の一種でしかないトーリック多様体の圏は,とある離散幾何学的な対象の圏に同値となり,その橋を介して多くの“純代数幾何学”的な問題と“離散数学(幾何学)”的な問題が華麗な対応を示し,行き来をし続けてきました.分野融合が数学を活性化させる好例です.

“見づらい”概念が溢れる代数幾何という立場からは,実際的な考察がしやすいことで重宝され,(ex.双有理幾何学)唯数えるだけになりがちの離散数学には,グラフ等を超えた新鮮な“構造”を取り入れることで大きな流れが生まれました.(Stanleyのg予想)

今回はまず,代数幾何的な立場から話をすることにします.基本的な事項を紹介した後,不定点解消等の双有理変換にまつわる話をトーリック多様体で考察します.全てに証明を付けたりはしません.

予備知識については,代数多様体(一般の意味での)や有理写像,Blow-up等がわかれば“十分”ですが,Affine代数多様体や正則写像くらい知っていれば話の概観はつかめて“十分”楽しめると思います.


11 月 2 日:西本将樹氏『Nevanlinna theory』

Nevanlinna theoryは,有理型関数の値分布論という形で1925年に彼自身の論文で創始されました.彼は関数のとる値の大きさやある値をとる回数などを測るNevanlinna関数を定義し,それらの関係を調べ,その理論の中核をなすFirst Main Theorem,Second Main Theoremと呼ばれる定理を証明しました.

その理論は$\C^n$から複素多様体への有理型写像へと拡張されてきました.十分な結果が得られている場合も多いようですが,特にSecond Main Theoremの方については一般の場合にはまだ満足な結果が得られていないことも多いようです.これらの話題はセミナーではほとんど扱わないと思います.

また,1987年にVojtaがDiophantus近似論をNevanlinna理論に類似した形で定式化したことを受けて,近年Nevanlinna理論への注目が高まっているようです.結果や証明法を含め多くの類似性が指摘され,それに伴い一方の結果の類似が他方で成り立つと予想され,相互の理論の発展に貢献してきました.これについては,類似性は指摘されているものの何故そのような対応があるかは分かっていない部分が多いようです.

今回のセミナーでは,Nevanlinna理論の最も簡単な場合($\C$から$\C$への有理型関数)について,First Main TheoremおよびSecond Main Theoremを証明することを目標にしようと思っています.簡単な応用として,例えば複素解析学におけるPicard's little theoremが証明されます.Diophantus近似論との類似についても紹介はするつもりです.予備知識としては,大学1〜2年生で習う程度の複素解析を知っていれば大丈夫だと思います.

発表は今の所1回を予定しています.2回以上やる可能性は0ではありませんが,次回以降の方はそういう予定でお願いします.


10 月 26 日:山本修司氏『Rankin-Cohen bracketと保型擬微分作用素』

Rankin-Cohen bracketとは,重さk, lの保型形式f, gに対し,それらの導関数を組み合わせることによって重さk+l+2nの保型形式[f, g]nを対応させる演算です.今年5月11日の伴克馬氏のセミナーに登場した「Rankin-Cohen作用素」と同じものです.)

この演算が何処から(あるいは何処に)現れるのか,ということについてはいくつかの解釈があるのですが,今回はCohen-Manin-Zagierによるものを紹介したいと思います.これは保型形式とある種の「擬微分作用素」との対応をつけることによって保型形式の空間に非可換な積の構造を入れ,その積をRankin-Cohen bracketによって表示する,というものです.

なんでもセミナーでは保型形式の話はあまりされていないようですので,一応定義から始めようと思います.特別な予備知識は必要としないようにするつもりですが,必要なことしか説明しませんので,「保型形式入門」というような内容は期待しないで下さい.


10 月 19 日:入江慶氏『Morse理論とh-同境定理』

今回が最終回です。証明の鍵となる二つの定理(Second Cancellation thoremとBasis theorem) を示したあと、主定理の証明を行います。


10 月 12 日:入江慶氏『Morse理論とh-同境定理』

前回の続きです。一つめのCansellation theoremまで示す予定です。はじめに前回の復習をするので、前回にいらしていなかった方も聞ける発表になると思います。


10 月 5 日:入江慶氏『Morse理論とh-同境定理』

n次元の可微分多様体MとNに対して,M ∪ Nを境界とするようなn+1次元の可微分多様体をMとNの間のコボルディズムといいます.

例えば,Mと[0,1]閉区間との直積はMとMの間のコボルディズムとなります.これは最も簡単なコボルディズムの例であり,積コボルディズムといいます.

Smaleは,6次元以上のコボルディズムCに対して,Cが一定の条件を満たせばCから[0,1]への臨界点を持たない写像が作れることを示し,その帰結としてCが積コボルディズムになることを示しました.これをh-同境定理といいます.

今回は,Milnorの講義録:Lectures on the h- Cobordism thoremに基づいて,h-同境定理の証明を紹介します.主定理の系として,次元が5以上のPoincare予想も扱う予定です.

だいたい以下の順番でやるつもりです.予備知識は,多様体,および(特異)ホモロジーに関する基本的な定義と性質くらいです.
1. The Cobordism Category
2. Morse Functions
3. Morse Complex(es?)
4. Cansellation of critical points
5. Proof of the h-Cobordism thorem


9 月 28 日:今井直毅氏『K-Theory入門』

実有限次元ベクトル空間がノルムつきのR-algebraの構造を持つ例として実数、複素数、四元数、ケーリー数が知られています。逆にRnがノルムつきのR-algebraの構造を持つのはn=1,2,4,8の時のみであることが1900年にHurwitzによって代数的に証明されました。しかしさらに強く、Rnがdivision algebraの構造を持つのがn=1,2,4,8の時のみであるかどうかは長い間未解決のままでしたが1960年にAdamsが位相幾何を用いてこのことを証明しました。今回はその証明を紹介しようと思います。

1.Vector bundle
2.K-Theory
3.Adams operations
4.Proof of Theorem
と言う感じでやろうと思います。K群の性質に全て証明を与えると大変だと思うのでいくつかの性質は認めて、それを用いてどのように証明するかを説明したいと思います。

予備知識はベクトル束やホモトピー群の定義と基本的な性質です。


9 月 21 日:佐野太郎氏『複素トーラスの埋め込み』

複素射影空間の解析的集合は代数的集合である、というChowの定理があります。前回構成した埋め込みの像は射影空間の複素部分多様体であり、Chowの定理から像は代数的であることがわかります。これが代数的な複素トーラスと呼ばれる由縁です。

しかし像の具体的な定義方程式についてはこの定理だけではあまりわかりません。この像の定義方程式についてわかることを次回述べたいと思います。


9 月 14 日:佐野太郎氏『複素トーラスの埋め込み』

複素トーラスとは複素空間Cnの格子による商空間のことです。射影空間に埋め込める時複素トーラスは代数的といいます。複素トーラスには代数的なものとそうでないものがあり、それを見分ける為の格子の基を並べた周期行列に関するRiemannの条件というものがあります。この条件だけでは埋め込みがどのようなものかはわかりませんが、条件を満たす複素トーラスはある種の標準形に直すことができ、標準形の複素トーラスについてはテータ関数を使って具体的に埋め込みを構成できます。今回の発表ではこの埋め込みの構成について発表したいと思います。


7 月 13 日:阿部紀行氏『単純Lie環の分類』

一回あきましたが,前回の続きです.実単純Lie環の分類を完成させます.

まずは実単純Lie環の佐武図形が,実階数1の単純Lie環の組み合わせで作られることを示します.これと前回行った実階数1の単純Lie環の分類を組み合わせることで,一般の場合の分類を行います.


7 月 6 日:近藤宏樹氏『多重可移群とSteiner系』

t, k, vを1<t<k<vを満たす自然数とするとき、v元からなる有限集合Xのk元部分集合の族Bであって
「Xの任意のt元部分集合はちょうど1つのBの元に含まれる」
という条件を満たすものをSteiner系B(t,k,v)と呼びます。

もちろんt,k,vがどんな自然数のときも対応するSteiner系が存在するわけではなく、どういうときに存在するのかも詳しくは全く分かっていませんが、ある性質を持つ多重可移群があるとそこからSteiner系を作り出すことができます。

今回の発表では、Mathieu群M24にこの構成を適用してSteiner系S(5,8,24)ができることを解説します。他のMathieu群からもSteiner系はできるのですが、Steiner系S(5,8,24)は散在型単純群の1つであるConway群を構成するのに用いる(Conway群については今回は扱いませんが、そのうちなんでもセミナーで発表する予定です)のでこの場合を扱います。

Mathieu群M24については前回の発表で話しましたが、今回の発表ではM24の構成及び性質はいくつかしか用いないので、必要な部分を中心に復習する予定です。したがって、群の集合への作用など基礎的なことを知っていれば楽に聞ける内容になると思います。


6 月 29 日:阿部紀行氏『単純Lie環の分類』

前回の続きです.実単純Lie環の分類を行います.


6 月 22 日:阿部紀行氏『単純Lie環の分類』

体k上の有限次元Lie環は,非自明なイデアルを持たず,なおかつk上の次元が2以上の時に単純であるといいます.これは,対応するLie群の言葉で言えば,(2次元以上であり,)連結閉な正規部分群を持たないということと同等になります.このことからもわかる通り,単純なLie環はLie環の中でも非常に基本的なものです.

今回は,kが実数体の場合に単純Lie環の分類を行います.セミナーは二回にわけて行われる予定です.一回目は,kが複素数体の場合を(証明は殆ど抜きで)扱います.時間があれば,実の場合への準備も行いたいと思います.実数体の場合の本格的な分類は二週目になります.

予備知識としては,学部1,2年の線形代数くらいですむはずです.


6 月 15 日:栗林司氏『分割数の初等的漸近評価』

$A$を$\mathbb{N}$(0を含まないものとする)の部分集合としたとき,自然数$n$を$A$の元の和に分割する方法の数(順番を変えただけのものは同一視する)を$p_{A}(n)$とおきます.$A$=$\mathbb{N}$としたときが所謂分割数です.このとき$p_{A}(n)$を$p(n)$と書きます.1918年,HardyとRamanujanは複素解析を使って,分割数のかなり正確な漸近公式を証明しました.また,1942年にErd\"{o}sは,それより弱い結果ではありますが$p(n)\sim \frac{a}{n}e^ {\pi\sqrt{\frac{2n}{3}}}$($a$はある定数)であることを初等的に証明しました.今回の発表では$p(n)$の正確な評価を目指すことから少し方向性を変えて,Erd\"{o}sの$\log p(n)\sim\pi\sqrt{\frac{2n}{3}}$の証明を応用して
$1\leq r_1,r_2,\cdots,r_l\leq m$は相異なる自然数
$\gcd(r_1,r_2,\cdots,r_l,m)=1$
$A=\{n\in\mathbb{N}|\exists i\in\{1,2,\cdots,l\} n \equiv r_i \pmod{m} \}$
としたとき,
$\log p_A(n)\sim \pi\sqrt{\frac{2ln}{3m}}$
であることを証明します。予備知識として必要なのは高校数学だけです。皆さまの参加をお待ちしています。


6 月 8 日:入江慶氏『Seifert予想について』

$M$を$C^\infty$級の向き付け可能な$n$次元多様体とします.$M$上の「流れ」とは,大雑把に言って$\mathbb{R}$から$M$の微分同相写像のなす群への滑らかな準同型$F \colon t \rightarrow F_t$のことです.例えば,$M$上にベクトル場が定義されているとき,$M$上で微分方程式を解くことにより流れが定まります.

流れは,その滑らかさによって$C^1$級から$C^\infty$級までのレベルに分かれています.

$M$上の点$x$について,$t$が実数全体を渡るとき$F_t(x)$と書ける点全体の集合を$x$を通る軌道といい,$O(x)$と記します.$O(x)$が一点であるとき,$x$を特異点といいます.また,軌道$O(x)$は,$M$内の閉集合であるとき,閉軌道と呼ばれます.

$M$の上に特異点の無い流れが存在するのは,$M$がどのような条件を満たすときだろうか?というのは素朴な疑問でありましょう.この問題は,Hopfにより「$M$上に特異点の無い流れが存在することと,$M$のEuler数が$0$であることは同値」という形で解決されています.とくに,$n$が奇数ならば$M$は必ず特異点の無い流れを持ちます.

$S^3$上の特異点を持たない流れの実例として有名なHopf-flowというものがあります.1950年,SeifertはHopf-flowに「近い」流れは全て閉軌道を持つことを示し,それを踏まえて次の問題を提出しました.

問題:$S^3$上の特異点の無い流れは必ず閉軌道を持つと言えるか?

この問題にたいする肯定的な主張はSeifert予想と呼ばれ,長い間幾何学者にとっての重要な課題でしたが,74年にはSchweitzerが$C^1$級の反例を構成し,94年にKuperbergが$C^\infty$級の反例を構成して,最終的な解決に至りました.Kuperbergの反例は,すでにあるplugというアイデアを基礎としたものでしたが,self-insertionという新しい技法を導入した点で画期的なものでした.

今回のセミナーでは,flowの定義から初めて,Schweitzerの反例を紹介し,それがなぜ$C^1$級の反例に留まっていたのかを考察したあと,Kuperbergの反例を紹介したいと思います.


6 月 1 日:山下温氏『零次元コンパクト距離空間のベキ空間』

前回の続きです.


5 月 25 日:山下温氏『零次元コンパクト距離空間のベキ空間』

今回は General topology のごく新しい結果について紹介したいと思います.

距離空間 X が零次元空間であるとは,それが開かつ閉集合からなる開基をもつことをいいます.Cantor 集合はコンパクトな零次元空間の典型例であるといえます.さて,一般に距離空間 X が与えられたとき,そのコンパクト部分集合全体に自然な位相を入れることができ,それを X のベキ空間といいます(これを exp X と書くことにします).X がコンパクトな零次元距離空間であるとき,やはり exp X もコンパクトな零次元距離空間になります.

最近,2005年に出版された論文で,exp X の形でかけるコンパクトな零次元距離空間の完全な分類が与えられました.分類は (1) そのような空間が標準的な空間(閉曲面で謂うところの球面,トーラス,二人乗り浮き輪…)のひとつと同相であることを示す (2) その中から,存在し得ないものを除く,というものですが,特に (2) を経たのちの結果は思いもよらぬ不規則なものでした.

今回は (1) の部分について,特に予備知識を仮定せずに解説したいと思います.(但し,「コンパクト」と「全有界完備」の同値性は用います.その他は難しい知識はいりません)また,(2) については詳しい説明は省略しますが,結果は述べたいと思います.


5 月 18 日:荻原哲平氏『Gelfand transformについて』

複素Banach空間に積が定義されていて,一定の条件を満たすものをBanach代数といいます.Banach代数の例としては,コンパクト位相空間上の連続関数環や,Banach空間上の有界線形作用素のなす空間などがあります.

Gelfand transformとはBanach代数から,ある連続関数環への準同型であり,Banach代数に条件をつけるとGelfand tranrsformはisometryになったり同型になったりします.Gelfand transformはBanach代数,特にHilbert空間上の作用素を調べる上での,重要な道具になります.

今回のセミナーでは,Gelfand transformを定義して,基本的な結果であるGelfandの定理を証明したあと,簡単な応用を紹介したいと思います.

予備知識としては,Banach空間の基礎的なこと(有界線形作用素,一様有界性原理,Alaogluの定理など)ですが,知らなくてもstatementだけは最初に述べるので大丈夫です.よろしくお願いします.


5 月 11 日:伴克馬氏『Rankin-Cohen作用素について』

上半平面上の保型形式$f(z)$は$z$で微分してしまうと保型形式ではなくなってしまいます。ところが、自然数$n$とウェイトが$k$と$l$の保型形式$f(z)$と$g(z)$に対して
\[
\sum_{s+t=n} \frac{ (-1)^n }{ (k)_s (l)_t } \frac{ d^s f(z) }{ dz^s } \frac{ d^t g(z) }{ dz^t }
\]
(ただし、$(k)_s=k(k+1)…(k+s-1)$、$(l)_t=l(l+1)…(l+t-1)$)という関数を考えると、これはウェイト$k+l+2n$の保型形式となります。この微分作用素をRankin-Cohen作用素といいます。

今回のセミナーでは、なぜこのような形の微分作用素が出てくるのかを説明する一つの見方を紹介したいと思います。

セミナーにおいては$SL(2,\mathbf{R})$の表現論が出てきますが、一般論にあたる部分は一々「事実」として確認しながら扱っていきますので、予備知識としてこれらを仮定するわけではありません。

些か特殊すぎて関心が持ちにくい話題かと思いますが、$SL(2,\mathbf{R})$の場合には計算を実行してものを調べることができる、という傾向の一例として受け取っていただければ幸いです。

それではよろしくお願いします。


4 月 20 日:西本将樹氏『Bakerの定理(続き)』

今回はまず、前回の続きとして、代数的数の対数の、代数的数を係数とする線形結合の下界に関する評価を行います。ごちゃごちゃした式を適当に評価したりというのは前回十分楽しんだと思うので、今回はそういった複雑な計算や前回と同様の方針で証明できる部分は基本的には省略して進みます。超越数論に特有の変な評価に疲れた人も、今回は大丈夫だと思います。

そして、後半にはその応用として、ある種のDiophantus方程式についてその解の上界が求められることを証明しようと思います。

なお、一応今回で終わる予定です。


4 月 13 日:西本将樹氏『Bakerの定理』

Bakerの定理とは、簡単に言えば、代数的数の対数の、代数的数を係数とする線形結合
β1\log α1+\cdots+βn\log αn
は自明な場合を除いて0にならないというものです。それだけでなく、Bakerはその線形結合の絶対値の下界を具体的に与えました。そのことから、Bakerの定理はDiophantus方程式の解を決定する問題や、虚2次体の類数に関する問題に応用され、結果Bakerは1970年にフィールズ賞を受賞しています。

今回はこの定理の証明、及び幾つかの応用例について紹介します。予備知識は高校数学と簡単な線形代数、複素解析くらいを知っていれば大丈夫だと思います。


3 月 9 日:今井直毅氏『Dold-Thomの定理』

Dold-Thomの定理というのは
XがHausdorff空間で、AがXの良い部分空間であるときにXの無限対称積からX/Aの無限対称積への自然な射がquasifibrationになる
というもので、これによってSnなどの無限対称積のホモトピー群が計算できそれを用いてEilenberg-MacLane空間の構成ができます。Eilenberg-MacLane空間はhomotopy論に基礎を置いたトポロジーではcohomologyを定義するのにも使われる非常に重要な空間です。

今回のセミナーではDold-Thomの定理の証明を紹介しようと思います。

予備知識としては基本的な位相空間の言葉を知っていれば大体わかると思います。無限対称積やquasifibrationについては定義から説明します。あとhomotopy群の定義とかhomotopy群の完全列を知ってるとなおよいです。


3 月 2 日:萩原啓氏『単体的ホモトピー論入門(続き)』

先週の続きです。モデル圏論を中心に行います。具体的には、モデル圏の局所化の構成、モデル圏間の関手に対してその導来関手の構成などを紹介します。また、これらの結果を位相空間の圏、単体的集合の圏、Abel群の複体の圏に適用した際の諸帰結についてお話したいと思います。

モデル圏の定義などの復習も適宜行う予定ですので、 圏論の初歩的な知識があれば前回まで来なかった人でも理解できると思います。


2 月 23 日:萩原啓氏『単体的ホモトピー論入門(続き)』

先々週の続きです。今回はモデル圏の定義・性質について述べ、その単体的ホモトピー論への応用例を紹介します。

圏論的な議論が中心ですので、圏と関手に関する初歩的な知識があれば前回来なかった人でもほとんど理解できると思います。


2 月 16 日:松本雄也氏『2次体のイデアル類群』

代数体( \mathbb{Q} の拡張のようなもの)の整数環( \mathbb{Z} の拡張のようなもの)においては一般には素因数分解の一意性が成り立たないことが知られています.イデアル類群は,整数環が PID とどれだけ離れているかを測るものであり,昔から整数論の研究対象の一つとされています.現在でも,類体論,岩澤理論などと関係がある重要な概念です(たぶん).

とくに 2 次体のイデアル類群については,代数体やイデアル類群といった概念が整備される以前より,すでに Fermat や Gauss の時代から( 2 元 2 次形式の形で)研究されています(むしろこれが一般の代数体の研究の基礎にあったと考えられます).

今回の内容としては,まず 2 元 2 次形式とイデアル類群との関係を説明した後,イデアル類群の構造を, 2-part を中心に話そうと思います.具体的には,イデアル類群を C として,C/C^2, C^2/C^4, C^4/C^8, ... の決定を目指すわけですが,これは後になるほど難しく,1番目は Gauss の種の理論により決定され,2番目もそれの応用で多少の計算により求まるのですが,3番目は特殊な場合の結果しかなく(やや一般的な予想はある),4番目以降については何もわかっていないに等しい状態です.時間が許せば, 2-part 以外の構造についても多少話すかもしれません.

1 回で終わらせる予定ですが,やむを得ず延びる可能性もあります.

2次体の整数論について多少予備知識があれば理解しやすいかと思います.いちおう定義はしますが,イデアル,平方剰余,Legendre / Jacobi 記号,分解法則,など.たまに算術級数定理や類体論や類数公式を断りなく用いるかもしれませんが,この辺は聞き流しても大筋がわかるようにしようと思っています.


2 月 9 日:萩原啓氏『単体的ホモトピー論入門』

単体的集合とは大体、構成要素のn次元単体及びそれらの繋がり具合を抽象的なデータとして持つ数学的対象です。これを「空間」と思って行うホモトピー論を単体的ホモトピー論といいます。

これは丁度、位相空間のホモロジー論に端を発するAbel群の複体という対象及びその計算技術が、それ自体ホモロジー代数という理論として独立したことと平行しています。すなわち、Abel群の複体:ホモロジー論=単体的集合:ホモトピー論という対比が成り立ちます。

単体的ホモトピー論が位相空間のホモトピー論と「同等である」ことの証明を取り敢えずの目標としますが、余裕があれば、無限対称積に関するDold-Thomの定理の単体的類似などについても紹介したいと思います。

なお今回は、単体的集合の圏がモデル圏の構造を持つことに留意しつつ、モデル圏論的に議論を進めようと思います(モデル圏がどのようなものであるかについては、以前のホモトピー代数の回を参照してください)。勿論、モデル圏の定義・必要な性質等については今回改めて導入する予定です。

予備知識としては、位相空間とホモトピー群の定義及びカテゴリー論についての基礎的な知識(例えば、河田敬義著「ホモロジー代数」、圏と函手の章に載っている程度)を仮定します。


2 月 2 日:近藤宏樹氏『大きい位数のMathieu群の単純性』

有限群論のものすごく大変な定理である有限単純群の分類によれば、有限単純群はある種の無限系列によって得られる群および26個の「散在型」単純群からなります。その散在型単純群もそれぞれ構成の仕方が異なり分類どころか全ての単純群を列挙し単純性を証明するだけでも膨大な量になってしまいます(もちろん発表者は全然知りません)。

今回は、散在型単純群の中で最も古くから見つかっていた5つの群であるMathieu群M11, M12, M22, M23, M24のうち位数の大きい方の系列であるM22, M23, M24構成、および単純性の証明を紹介します。Mathieu群はすべてある多重可移群の可移拡大として得られるのですが、一般に忠実な多重可移群について
「1点の安定化群が単純群ならば(いくつかの例外を除いて)元の群も単純群である」
という単純性の十分条件を割と簡単に証明することができ、これを用いると、いったん群を定義してしまえば単純性の証明はあっという間にできてしまいます。具体的には、M22, M23, M24の単純性はすべて射影特殊線型群の単純性に帰着されます。

実はM11, M12のほうの単純性を証明するためにはもう少し準備が必要なのですが(M11の1点の安定化群が単純群でないので、M11の単純性にはさっきの特徴付けが使えず直接がんばることになる)、そんなわけで大きい位数の系列はちゃんと証明しても一回のセミナーで完結できるくらいの量だと思います。

予備知識は3年生程度の群論で十分です。今回はSylowの定理すら使わない気がします(うっかり使ったらすいません)。有限体の乗法群の生成元を取ったりしても我慢できる精神力があればなおよいです。みなさまの参加をお待ちしています。


1 月 26 日:山本修司氏『Heckeの積分公式とその周辺』

実解析的Eisenstein級数というものがあります.これは上半平面上の点zと複素数sの関数E(z,s)で,zに関しては(実解析的な)保形関数として,またsに関してはゼータ関数の仲間のように振舞います.

特にzがある虚2次体に含まれる点であるとき,E(z,s)はその体のゼータ関数と(ほぼ)一致することが,定義から見て取れます.この関係は,Kroneckerの極限公式と結びつくことで虚2次体の数論において色々な応用を提供しました.

Heckeの積分公式とは,上記の関係の実2次体における類似というべきもので,E(z,s)の適当な線積分によって実2次体のゼータ関数を表す,という公式です.

今回は,E(z,s)と2次体のゼータ関数のこれらの関係や,代数体の2次拡大への一般化について話そうと思います.またKroneckerの極限公式との関連,応用などについても話したいと思っています(実は具体的に何をやるかはほとんど未定です).

予備知識としては,1・2年生程度の解析や線形代数の他に,代数体に関する多少の知識を仮定します.(いつもながら曖昧な書き方ですみません.)とはいえ,後者について知らない人もあまり気にせずに聞きに来てください.


1 月 19 日:佐野太郎氏『コンパクトリーマン面入門』

前回の続きです。大体予備知識の準備がおわったので、次回は本論に入ろうと思います。


1 月 12 日:佐野太郎氏『コンパクトリーマン面入門』

ハウスドルフで連結な1次元複素多様体をリーマン面といい、リーマン面上で有理型関数を考えることが出来ます。コンパクトリーマン面X上では非定数正則関数は存在しませんが、非定数有理型関数は存在して、しかも1点にのみ高々g+1位の極を持つ有理型関数が存在することがわかります。(g:Xの種数)

この高々g+1位をさらに改善できるか?つまり1点にのみ高々g位の極を持つ有理型関数が存在するでしょうか?これは存在して、さらにそのような極となる点は有限個しかないことがわかります。その有限個以外の点ではそこにのみk位の極(1≦k≦g)を持つ有理型関数は存在しないわけで、その点では1,2,...,gはgapであるということが出来ます。そのgapはXの各点ごとに定まりそれを1から2g-1の範囲で考えると各点でのgapの個数はちょうどg個である、というのがWeierstrassのgap定理です。

このWeierstrassのgap定理などについて話そうと思います。複素解析や多様体を多少知っていれば十分分かると思うので聞きにきてください。