2008 年のなんでもセミナー


3 月 6 日:三枝洋一氏『エタールコホモロジー入門』

エタールコホモロジーは一般のスキームに対して機能するコホモロジー論としては現存する唯一のものであり,数論幾何学において欠くことのできない道具です.今回のセミナーでは,このエタールコホモロジーの基礎理論について,いくつかトピックを選んで解説したいと思います.


2 月 28 日:近藤宏樹氏『有限次元代数の表現論の話』

Kを体とし、K上の必ずしも可換でない有限次元代数(K代数であって、Kベクトル空間として有限次元なもの)Aを考えます。環Aに対して(有限生成な)A加群の様子を調べたいというのは基本的な問題ですが、Aがあるquiver(有向グラフのこと)から定まる道代数の商であるときにはA加群をquiverの言葉を用いて視覚的に表示することができ、一般的な環上の加群としての考察と組み合わせることで色々な事実が示せることがあります。

また、特にKが代数的閉体であるときには次が成立することが知られています:
・ある条件の下でAはあるquiverの道代数の商に同型である。
・任意のAに対して、上のような代数であってAと有限生成加群の圏が同値であるものが存在する。
したがって、有限次元代数上の有限生成加群を考える上では上記の設定が本質的なものであることが分かります。

今回のセミナーでは、このような考え方を具体例を交えつつ紹介することを目標とします。何か手軽な応用があれば扱おうと思いますが、まだできるかどうかは分かりません。環や加群についての簡単な用語を知っていれば(可換環論などの代数学についてはほとんど知らなくても大丈夫だと思います)聞ける話にしたいと思っていますので、学部生の方も奮ってご参加ください。なお、セミナーは1回で終わる予定です。


2 月 21 日:渡部正樹氏『grid shading problemとsubset sum problem』

タイトルにあげた二つの問題はどちらも、組合せ論の難問として知られる(らしい)問題です。grid shading problemは、「自然数m,nに対し、"kをm以下の整数n個以内に分割する方法の数"はunimodal(あるkまで単調増加、その後単調減少)か?」という問題で、subset sum problemは、「n個の正の実数からなる集合は、要素の和が等しい部分集合を最大いくつ持つか?」という問題です。これらの問題はおのおの、適切な半順序集合を導入することで、それらがある共通の性質を持つことに帰着できます。今回の発表ではそれを利用し、これら二つの問題を一度に解決したいと思います。

予備知識としては線形代数の初歩ぐらいしか仮定しないと思います。


2 月 14 日:入江慶氏『サーストンの不等式について(2)』

昨日はサーストンノルムを定義するところまでやりました。今回は、サーストンの不等式を証明します。第1回の内容も、今回必要となることについては復習しますので、今回からの参加でも楽しめると思います。


2 月 7 日:入江慶氏『サーストンの不等式について』

今回のセミナーでは、3次元多様体上の余次元1の葉層構造を考えます。葉層構造からは自然にベクトルバンドルが定まるので、そのオイラー類を考えることができるわけですが(この場合2次のコホモロジー)、ある条件のもとでそのオイラー類の「大きさ」を上から評価するのがサーストンの不等式です。

今回は、バンドル葉層という簡単な場合についてサーストンの不等式を証明したあと、この結果がサーストンのノルムの理論を用いてどのように捉えられるかを説明します。

予備知識は多様体論および(コ)ホモロジー論の初歩です。後者については、
森田茂之 『微分形式の幾何学1』 岩波講座 現代数学の基礎
の§3.1に要領よくまとめられています。また、当日セミナー開始の30分ほど前に来ていただければ説明をします。


1 月 31 日:伊藤佑樹氏『有理関数のとる値による自然数の表示』

$R(x)=\prod (x+a_i)^{b_i}$(ただし, $a_i$は0以上の整数,$b_i$は0でない整数, $(b_1, b_2, \dots, b_h)=1$)という形の有理関数が与えられたとき, 任意の自然数$n$は$\prod R(n_j)^{e_j}$($e_j=\pm 1$)の形で表せ, ここに現れる各$n_j\in \mathbb{N}$は高々$n$の定数倍でおさえられることを示します.

予備知識としては, 群, 環, 体といった言葉を知っていれば十分だと思います.


1 月 24 日:山下温氏『連続選択写像について(続)』

前回は位相空間論の予備的事項を説明しました.今回は,主定理の証明からはじめます.主定理は,paracompact 性がある条件のもとでの selection の存在により特徴付けられることを主張します.

応用として,まず函数解析への応用をのべます.ついで,「selection で特徴づけられる空間のクラス一般がもつ性質」について論じます.その特別な場合として,paracompact 空間のなすクラスが,CW 複体をすべて含んでいることが分かります.

今回からの聴講も歓迎します.必要事項は要望に応じて説明します.


1 月 17 日:山下温氏『連続選択写像について』

位相空間 $X, Y$ が与えられたとき,$X$ の各元 $x$ に $Y$ の空でない部分集合 $F(x)$ を対応させるような写像を $X$ から $Y$ への集合値函数と呼びます.集合値函数 $F$ が「何らかの意味で連続」のときに,$X$ から $Y$ への連続写像 $f$ であって $f(x)\in F(x) (x\in X)$ となるようなものが存在するかを問う問題を selection problem といい,このときの連続写像 $f$ を集合値函数 $F$ の selection といいます.

今回は,$X$ が paracompact であるときに Banach 空間の閉凸集合に値をもつある種の集合値函数が selection をもつこと,また,その性質が paracompact 性を特徴付けることを証明します.(「ある種」はセミナーで定義.)

証明の後,函数解析への簡単な応用を述べ,またもう一つの応用として,CW複体の位相空間論的な諸性質を調べます.