12/12 タイトル:バナハ・タルスキーのパラドクスとアミナビリティ
発表者:ウーイェー・オトゴンバヤル 氏
内容: バナハ・タルスキーのパラドクスは簡単に言うと 「一個のりんごを有限個の部分にカットし、 それらを組み合わせることによって 最初のりんごと同じ大きさのりんごを2個作ることができる」 ということです。数学的にこの背景にあるのは
(i) 選択公理、と
(ii)二つの元で生成される自由群はアミナブルではないこと
である。
今回のセミナーではバナハ・タルスキーのパラドクス・定理を証明し、 そこにアミナビリティの果たす役割を説明したいと思います。 またアミナビリティの数学のほかの分野での活躍についても触れたいと思っています。
予備知識は特に必要ありません。
発表者:三枝 洋一 氏
内容: Selbergの跡公式は数論や表現論 (特に「保型表現」と呼ばれる分野)において 基本的かつ強力な道具です. また,解析的に見ると,Fourier解析の非可換化に当たり, その点から見ても興味深いものです.
今回のセミナーでは, (上で苦労して説明している)このSelbergの跡公式とは どのようなものかということから始めて, 簡単な場合の証明のスケッチと典型的な応用例を紹介したいと思います.
今回の発表内容は筆者の専門と異なる題材であり, 至らない部分も多くあるとは思いますが, その点は了承してください(特に数論専門の皆様).
予備知識は数学科3年生程度の解析の知識があれば十分でしょう. 解析専門の方の参加をお待ちしております.
発表者:阿部 紀行 氏
内容: Einsteinによって得られた重力理論である一般相対論の初めの方を紹介します。 具体的にはEinstein方程式を導入し、簡単な応用をしてみたいと思います。
基礎知識としては、多様体の基礎程度を仮定します。
発表者:伴 克馬 氏
内容: 代数群というのは,一般線型群の部分群であって, 各成分の適当な多項式で定義されるもののことです. なんか条件がついたりしますが,無視しちゃってください. いくつか例をあげるとおもうので, そんなかんじのものだとおもっていれば大丈夫です. 発表者もそんなかんじだったりします. 斜交表現というのは, 斜交(symplectic)群への表現のことです. つまり,表現空間に群の作用で不変な非退化交代形式があるような表現です.
いろいろむつかしそうなかんじのことがあって, このような表現をしらべることが大切だったりします. するはずです. してくれないと発表者の修士論文が(そうでなくてもなりそうなのに)ちゃらになります.
ちゃんというと “ある種の有理数体上の半単純代数群の, ある種の性質をもつ有理数体上の斜交表現をすべて求めなさい” とかいう問題があったりします. はじめの“ある種の”は,有理数体上の半単純代数群Gであって, 実数体有理点のなす群G(R)をその極大コンパクト部分群でわった空間が, G(R)(の実Lie群としての単位元の連結成分)不変な複素構造をもつ, というもので,あとのほうの“ある種の”はこの複素構造についての条件で, 斜交群のほうでも実数体有理点のなす群(実数体上の斜交群)を 極大コンパクト群でわった空間(不変な複素構造つき)を考えると, 商空間のあいだに射が誘導されて, さらに双方にきめた複素構造にかんして正則写像になっている,というものです.
この実数体上の斜交群の極大コンパクト群による商空間は Siegel空間といわれるもので, 吉田輝義氏のセミナーにしばしば顔をあらわしていた 複素平面の上半空間の高次元化になっています. (二次正方行列のばあいの斜交群Sp(2,R)は 特殊線型群SL(2,R)になっていたりします.) さっきの問題は,G(R)を極大コンパクト群でわった空間(複素構造付き)を Siegel空間に正則に埋め込もう,ということだったりするわけです. このことの大切さはSiegel空間がある種のモジュライ空間になっていて とても基本的で重要な対象であるということに由来していたりします.
これは発表者がうまれる, さらに干支がひとつくらいまえに解決していたりしちゃうという, ふるいおはなしなのですが, そんなことについてはなしてみたりとかしちゃおうという企画です. 大雑把に結果を紹介して, 発表者が修士論文とやらをまえになにをしようともがいているか, その希望的観測なんかを紹介できたらいいなとおもっています.
予備知識:
代数体上のはなしがあったりするので, Galois理論は仮定します. それから,有限群の表現なんかをしっていると理解しやすかったりするみたいです.参考文献:
I. Satake, Symplectic representations of algebraic groups satisfying a certain analyticity condition, Acta Math., 117(1967), 215-279
11/14 タイトル:Lebesgue の密度定理とその周辺の紹介
発表者:斎藤 新悟 氏
内容: Lebesgue の密度定理とは,次のような定理です:
E \subset \mathbb{R}^n が Lebesgue 可測集合ならば, ほとんどすべての x \in E に対して,lim_{r --> + 0}(m(E \cap B(x,r)))/(m(B(x,r)))=1が成立する。 ただし,B(x,r) は中心 x,半径 r の開球であり, m は Lebesgue 測度である。今回のセミナーでは,
についてお話します。・Lebesgue の密度定理の証明,
・Lebesgue の密度定理の応用例,
・Hausdorff 測度については,どのような密度定理が成立するか
予備知識は,測度論の基礎程度だと思います。
発表者:林田 崇生 氏
内容: Dieudonne理論というのは大雑把に言うと、 群スキーム(実際には色々な条件がつきますが)に対して ある種の加群を対応させ、その加群の性質を見ることにより 群スキームを調べようというものです。 今回のセミナーではこのDieudonne理論というものについて 簡単に解説していきたいと思います。 予備知識はほとんど仮定しないつもりですが (三年までの代数程度)、 その分肝心な部分の証明などはほとんどできないかもしれません。 細かいところには余りこだわらずに、 大まかな流れを理解してもらうことを目標にしたいと思います。
参考文献: Breen "RAPPORT SUR LA THEORIE DE DIEUDONNE" Asterisque 63 (1979) p.39-66
10/31 タイトル:Iwasawa-Tate のゼータ関数の理論の紹介
発表者:谷口 隆 氏
内容: Iwasawa-Tateのゼータ関数とは、 一般の(有限次)代数体に対して定義される解析関数で、 Dedekindゼータ関数やHeckeのL関数を (大雑把にいえば)積分の形で書いたものです。
調和解析の手法を用いることで、 Dedekindゼータ関数の極の位置と留数が分かり、 (注:もちろん零点の位置が分かったりはしません。) 関数等式を導くことができます。 ゼミではこの理論について紹介したいと思います。
証明は、スジだけ説明するとかなりシンプル(10分少々??)なのですが、 イデール上の積分など、やや抽象的な計算がでてくるので、 証明をある程度丁寧にやりたいと思っています。
アデールやイデールといった対象は 定義から始めようと考えています。 ので、予備知識はあまり必要ないと思います。 初歩の群論、環論、位相空間論、ぐらいでしょうか。 p進体に馴染みがあると説明が聞きやすいかも知れません。
参考文献としては、有名な
Tate, Fourier analysis in number fields, and Hecke's zeta-functions. 1967 Algebraic Number Theory (Proc. Instructional Conf., Brighton, 1965) pp. 305--347 Thompson, Washington, D.C.を挙げておきます。ゼミもだいたいこれに沿ってやることになると思います。
発表者:伊藤 哲史 氏
内容: 今回は、前回の続きとして、GL(n)の大域的Langlands対応の定式化や、 関数体の場合の証明方法などについて説明したいと思います (でも、あまり専門的にやる気は無いので、安心(!?)してください)。
予備知識ですが、今回は、基本的な代数幾何の用語 (関数体、因子、ベクトルバンドルなど)に聞き覚えがあると、 より親しみやすいかもしれません。 これらについても一応説明はしますが。
アブストラクトについては、先週分を見てください。
発表者:伊藤 哲史 氏
内容: 今回の話では、(GL(n)に対する)Langlands予想について、 できるだけ平易に説明したいと思います。 Langlands予想は、 局所体または大域体上の保型表現とGalois表現の対応を主張する予想で、 「非可換類体論予想」とも呼ばれています。
今回は、まず、平方剰余の相互法則や虚数乗法論、 Ramanujan予想がどのようにしてLanglands予想の枠組みでとらえられるかを軽〜く説明し、 Langlands予想の証明に使われる幾何学的なアイデアに 焦点をしぼって話をしようと思います。
ですから、今回お話するのはLanglands予想の かなり限られた一側面に過ぎないことをお断りしておきます。 予備知識ですが、平方剰余の相互法則とは何かが分かっていれば、 話の大筋は理解できるように努めます。 (が、失敗するかもしれません。あまり過度な期待はしないでください)
予定 :
1. 平方剰余の相互法則から保型表現へ
2. Galois表現の構成問題、特に虚数乗法論とRamanujan予想について
3. 局所Langlands予想とその構成
4. 関数体上の場合 --- DrinfeldのshtukaとLafforgueの定理
5. 代数体上での試み、GL(3)/Q の場合
参考文献 :
J.-P. Serre, A Course in Arithmetic, Springer GTM 7 (邦訳あり : 「数論講義」、岩波書店)
発表者:土岡 俊介 氏
内容: 前回(2002/06/20)の続きをやります。 この前はYoung図形で有名なRobinson-Schensted-Knuth Correspondenceの 紹介と、Snの既約表現の具体的な構成としてSpecht moduleを構成しました。
今回は、指標を調べることで対称群の表現について調べていきます。 このためには対称式のなす環について調べればよい、という驚くべき 定理があるので、今回は主に我々が中学校以来慣れ親しんでいる対称式に ついて色々と調べることになります。したがって、メインの議論には 予備知識はまったく必要ありません。前回来てくださった方も、そうでない 方も是非是非来てください。
前回は、話題を盛りだくさんにしすぎて、説明が十分できない個所が ありました(すみません)。今回はその反省に立って、内容については 禁欲してみなさんに楽しさが伝わるようにゆっくりと進めていきたいと思います。 そして最後に、このセミナーの成果として、黒板一杯にS6の既約指標の表を 実際に計算しながら書いて終りにしたいと思っています。
7/4 タイトル:Spherical Design と その応用の紹介
発表者:堀田 大介 氏
内容: ∀f ∈R[x1,....xd+1] ,deg f ≦ t に対して
\frac{\intS^df(p)dp}{\intS^ddp} = \frac{\sumx \in Xf(x)}{#X}が成立するような有限集合 X⊂S^d をd-dimensional shperical t-design と 言います。このようなXは球面全体での平均をXの有限個の頂点上での値の平均 で置き替えることが出来るという意味で、球面を近似する"良い"集合であると 考えることが出きます。
今回はspherical design についての、いくらかの基本的な事実をのべたあと、 自然科学(天文学や気象学、地理学)への応用について"お話し"することを目標 とします。
具体的には、Sd上での積分を定義し、spherical design の定義をしたあと、 ∀t∈Nに対してt-designが存在するという定理を証明します。しかし、この定 理の証明は残念ながら具体的にt-designを構成するためのヒントを*全く*あた えてはくれません(ToT; そこで、具体的にt-designを構成するさいの強力な定理:
o すべてのd+1次直交群O(d+1)の有限部分群GのS^d上の軌道が
o Gのn次球表現が既約であればこの軌道は2n-designである
を示し、いろいろの応用例を紹介したいと思います。
定義からして解析的なspherical designの理論に潜む組合せ的な面白さ、を感じ てもらえればと思います。
予備知識: 特にはありませんが、有限群の表現論についてちょっと、知識を仮 定します。"SdからSdへの2つの写像のdegreeが同じ iff 2つがホモトピック" なんていう定理もつかいますが、知らなくてO.Kだと思います。
発表者:中岡 宏行 氏
内容: 代数多様体に関係したいくつかの もの を比較します。
具体的には
古典的に定義された代数多様体がスキームとみなせること
射影空間の閉部分空間としては代数多様体と複素解析空間とが一致すること
等のお話をさせていただきます。
※係数体はCです。
※基本的な話しかできないので、多少なりとも造詣のある方には全くおもしろくないと思います。
※にも関わらず、発表者の力量不足のためまだわからない部分が多く、証明のできない箇所もあるかも知れません。
※圏論の用語、スキームについての多少の知識を仮定します。
発表者:土岡 俊介 氏
内容: 対称群については、古くから(一般論にのり切らないものも含めて) 膨大な知識が蓄積されている。今回は、特にこの中から古典的な 結果として、対称群の標数0の体上での線型表現について述べる。 具体的には、Snの既約表現を全て実際に構成し、その指標を 求める公式を導出することを目標にする。その際に、有限群の 表現論の一般論、Combinatorics、Symmetric Functionという3つの アプローチがinteractする楽しさ、実際に手を動かして計算できる 手ごたえを感じていただければ幸いである。
予備知識としては、有限群の表現論の一般論を仮定するが、 知らないことは質問していただければ命題を述べるので、 それを事実として認めていただければ特に問題はない。
6/13 タイトル:GL(2,\R) の既約admissible 表現(g-K module) の分類
発表者:中島 さち子 氏
内容: 今回はG = GL(2,\R) の既約admissible表現 π:G → Aut(V) を分類することを目的にします。 (簡単のため、以下ではG = GL(2, \R)+ (det > 0なもの全体)とします。)
Gの極大コンパクト部分群K = SO(2)に π を制限しましょう。 すると、一般にコンパクト群の表現論は``大変分かりやすい!''ので、 π|K の既約分解の様子(K-type)として起こりうるものは きれーい♪に分類できます。 また、各々のK-typeが``実現可能''なものであることが、 G の Borel部分群(上半三角行列全体)のある表現からの``誘導表現''を利用してわかります。
結果として、Gの表現には、 Principal series, Discrete series, finite-dimensional representation という 三種があることが分かります。 また、このうちのいずれがユニタリ化可能な表現であるか、 も考察します(既約ユニタリ表現の分類)。
ここまでが今回の目標です。
(今回、この分類をする動機としては、次の二点があります。
♪今回の話を、一般の半単純(実)Lie群 G に拡張したい。 (また、今回の話でnon-classicalな点はどこか。)
・・・それらに多少注意、言及しながら話を進めます。
♪♪上半平面 H 上に不連続群 Γ \subseet G (Γ \backslash H のvolume は有限)が 作用しているとき、 Γの作用により``ほとんど形が保たれる''ような H 上の関数として、 「保型形式」というものを考えることができます。
実は、L^2(Γ \backslash G, χ)上のGの右正則表現の既約分解の様子 (今回の話からすぐ分かる)から、保型形式としてはどのようなものがあるか、 がほぼ分かるのです。だから、Gの既約表現を知りたい・・・)
☆予備知識☆:
特にはなし、の予定。 でも、有限群の表現論を知っていると、感じがつかみやすいかもしれません。 ちょっと専門な人にとっては、基本的な話しかしませーん^^//★参考文献★:
``An Introduction To Harmonic analysis on semisimple Lie groups'' (V.S.Varadarajan)
``Automorphic Forms and Representations'' ( Bump)
``Lie群とLie環1.2'' (岩波講座・現代数学の基礎)
``Irreducible representation of SL(2,\R)'' (Robert W.Donley, Jr.)
他にも、SL(2,\R) の表現論や保型形式の間の関係を述べてあるような論文(Knapp等)や、 semisimple Lie groups の表現論、調和解析、についての本や論文なら、 何でも参考になるのでは。 でも、言葉が分かりにくいかもしれないので、BumpやLie群とLie環1.2などがお勧めデス。
ちなみに、今回は最初の二つの本を主に参考にします。
発表者:阿部 紀行 氏
内容: 世の中において、ある条件を満たす文字列の集合を表したいときがあります。 例えば、インターネットにおける掲示板などは リンクと思わしき場所があると自動でタグを挿入しリンクに置き換えますが、 それは
(http://で始まりスペースでない文字が何文字が続くような文字列)を発見しそれを置き換えることによって実装されています。 ではそのような文字列をどのようにして表現するか、 それには正規表現(regular expression) というよく知られた方法があります。 試しに(Perlの正規表現を用いて)上の文字列を表すような 正規表現を書いてみると以下のようになります。
http://[^ ]*実際はもう少し厄介な処理をしていますが、大体このような感じです。 今回ではこの正規表現を厳密に定義し、 目的の文字列を正規表現に直す方法と ぎゃくに正規表現を解釈するエンジンを実装するための方法、 そして最後にある文字列が正規表現で表せるかどうかを判定する定理を二つ紹介します。
予備知識:・日常会話に困らない程度の日本語
・集合、写像、べき集合、有限という言葉(直感的な理解で構わない)
発表者:山下 温 氏
内容: 集合を単なる元の集まりと見た場合,その性質は「濃度」により分類されますが, その類似として,整列集合を分類するための概念として順序数があります. 実は濃度も,この順序数を用いて,ZF集合論の中で厳密に定義することが可能です. 今回はこの順序数と整列集合との関係,および順序数の演算について解説致します.
予備知識:
自然数の集合論的な構成,つまり,0:=\emptyset, 1:=\{0\}, 2:=\{0,1\},…のようなことは仮定します(つまり自然数は集合として扱います). ZF集合論の公理を知っていれば,よりよいと思います. ただ,素朴集合論の認識でもほとんどの部分は理解できると思います.
5/23 タイトル:McKay の E8 observation について。
発表者:立川 裕二 氏
内容: モジュラー関数
J(q)=q-1+744+196884q+21493760q2+\cdotsの係数が定数項744を除けば皆 散在型単純群 "Monster" の表現空間の次元になっているというのが、 有名な McKay-Thompson の観察ですが、 ほぼ同時に McKay は
(qJ(q))1/3=1+248q+4124q2+34752q3+\cdotsの各項の係数が例外型リー代数 E8 の表現空間の 次元になっていることに気付きました。 こちらのほうはその翌年 V. Kac によって E8のうまい graded module を構成することで示されました。 その方法は共形場理論(CFT)からは自然なものですので、 これらを絡めつつ紹介するというのが今回の目的です。 (ただ、(qJ(q))1/3が(だいたい)E8格子のテータ関数であることと、 E8の表現がやはりE8格子に支配されていることから、こちらは頑張れば `elementary' に証明できるはずですが。)
予備知識:
仮定しないつもりですが、(というか必要な fact は列挙する) 喋っているときに要求してくれれば、 時間が許せば僕の出来る範囲で説明はします。参考文献:
o lattice および modular function については、 例えば Serre のCours d'Arithmétique の Chap. V, VII をそれぞれ参照してください。
o CFTの公理は色々ありますが、 今回はGaberdiel-Goddard の公理系( Comm. Math. Phys. 209 (2000) 549 http://link.springer.de/link/service/journals/00220/bibs/0209003/02090549.htm )に従います。 この論文の中ではPart IIを書くと言っておきながら、 いまだ書いている気配がありません。 なんとか言ってやってください。
発表者:林田 崇生 氏
内容: Riemann ζ 関数 ζ(s)=\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^s} (を\mathbb{C}全体に解析接続したもの)はさまざまな不思議な性質を 持っていますが,そのうちの1つにKummerの合同式と呼ばれている 次のようなものがあります.
pを素数とし,k,k'を正の整数で p-1 \nmid k, k \equiv k' mod (p-1)p^N を満たすものとすると,(1-p^{k-1})ζ (1-k) \equiv (1-p^{k'-1})ζ (1-k') mod p^{N+1} .これはkとk'がp進位相で近ければ,(1-p^{k-1})ζ (1-k) と (1-p^{k'-1})ζ (1-k') もp進位相で近いということを表していると 見ることができます.すると,(1-p^{k-1})ζ (1-k) を \mathbb{Z}_p上の連続関数に拡張できないかということが思いつきますが, 今回のセミナーでは(1-p^{k-1})ζ (1-k) が実際に\mathbb{Z}_p上に 拡張できることを
Koblitz "p-adic Numbers, p-adic Analysis, and Zeta functions"に沿って解説していきたいと思います.
予備知識
\mathbb{Z}_pの基本的な性質(コンパクト性,p進展開など)
5/9 タイトル:三角和の一様分布とétale cohomology
発表者:三枝 洋一 氏
内容: 有限体\mathbb{F}_qの自明でない加法的指標をψ, 乗法的指標をχとしたとき, 有限和∑_{x∈ \mathbb{F}_q^{\times}}ψ(x)χ(x)をGauss和と呼びます. このように,指標を組み合わせて和をとったものを三角和と呼びます.
Gauss和の絶対値は\sqrt{q}であることが知られていますが, その偏角はどうなるかということが今回のセミナーの主題となります.
主定理は次の通りです:
qを動かすと,Gauss和の偏角θは(0≤ θ <2π上)一様に分布する.セミナーでは,上の主定理を示すためにKloosterman和という 別の三角和の絶対値をqの式で上から押さえることを考えます. その際に有効に用いられるのがétale cohomology, 特に1980年にDeligneによって証明されたWeil予想(の一般化)です. étale cohomologyはsingular cohomologyの 任意の体上への一般化として紹介されることが多く, 非専門の人にはありがたみが感じられにくいと思いますが, 今回の内容は有限体上特有の応用例であり, étale cohomologyの威力が最も安直に分かると思います.
また,WeilがFermat型の多様体のZeta関数を調べたときには, Jacobi和という三角和を評価することでWeil予想が示されたことを考えると, それの逆になっているということも興味深く思われます.
予備知識としては, 有限体論(昔の山本さんの「有限体上の方程式の根の個数について」のアブストラクト程度) と基礎的な代数幾何を仮定します. étale cohomologyは最初から解説するので,知らなくても大丈夫です. ただ,普通の層係数コホモロジーは知っていたほうが理解しやすいでしょう.
[参考文献]
1. P. Deligne, Cohomologie Etale (SGA4+1/2)
2. P. Deligne, La Conjecture de Weil II
3. N. Katz, 東大講義録
4. N. Katz, Gauss Sums, Kloosterman Sums, and Monodromy Groups
1はいうまでもなくétale cohomologyについての名著ですが, 三角和の評価にétale cohomologyを使うことが書かれている (おそらくは)最初の文献でもあります. SGA4+1/2のexposeのなかでも[Sommes Trig.]は大変よい出来となっており, まだ読んでいない人には一読をお勧めします.
2はWeil予想の拡張を証明した論文として有名ですが, Weil予想の一様分布への応用についても詳しい解説があります (Sato-Tate予想の関数体版の証明など).
3は今回のセミナーのmain referenceです. 今回の内容が平易かつ簡潔にまとまっており,大変読みやすくなっています. 出版はされていませんが,数理の図書館にあります.
4は3の内容が詳しく書かれた本であり, 三角和(に伴うétale sheaf)のmonodromyにもふれています. 私はあまり読んでいませんが,興味深い話題や手法が多く載っています.
このほかにもε factorやFourier-Deligne変換との関係など, 関連する話題は多くあります. セミナー中にいくつかremarkするかもしれません.
発表者:ウーイェー・オトゴンバヤル氏
内容: C^*-環のK-理論において次のThom同型の類似が存在する事が1981年にA.Connesによって証明されました.
「任意のC^*-環 A のR作用による接合積のK_i-群は A のK_(1-i)-群と同型である (i=0,1)」今回のセミナーでは,この定理の証明を解説したいと思います. この定理の意味は
i) Bottの周期性定理はC^*-環のK-理論でも成り立つ.
ii) 任意のR作用は自明の作用に連続に変形出来る.
ということです. Connes の証明はcocyleの変形を使うものでしたが,ここではBlackadarの本に沿って解説します.
参考文献:
B.Blackadar, K-Theory for Operator Algebras
M.A.Rieffel, "Connes' analogue for crossed products of the Thom isomorphism", pp143-154 in Operator Algebras and K-theory(San Francisco, 1981), Contemp.Math.10,AMS., Providence, 1982
A.Connes, "An analogue of the Thom isomorphism for crossed products of a C^*-algebra by an action of R", Adv,in Math 39:1(1981), 31-55
予備知識:
C^*-環の基本的な性質
C^*-環のK-理論の基礎(K-群の定義,6-term exact sequence)
R作用による接合積は少し説明しますがTakai dualityは仮定します.
発表者:斎藤 新悟 氏
内容: a, b を a < b なる実数とし,f:[a,b]-->R とします。 このとき,非常にラフにいうと, 次の微分積分学の基本定理が成立します:
(1)F(x) = \int_{a}^{x} f(t) dt とおくと,F'(x) = f(x);
(2)\int_{a}^{b} f'(x) dx = f(b) - f(a) 。
この定理を正確に述べるためには, 次の 2 点を明確にしなければなりません:
・\int はどのような積分を意味しているか;
・f にはどのような条件が必要か。
[a,b]-->R なる関数の積分として, 私の知る限りでは,次の 7 個があります:
・Riemann 積分;
・Lebesgue 積分,McShane 積分;
・Denjoy 積分,Perron 積分,Henstock 積分;
・Khintchine 積分。
これら 7 個は,定義はすべて異なりますが, 横に並んでいるものは実は同等で, 下に行くほど広い意味での積分になっていることが知られています。
今回のセミナーでは, これらのうちのいくつかの積分の定義を行い, それらによって微分積分学の基本定理の f に 課される条件がどのように変わるかを 紹介したいと思います。
主な参考文献は, Russel A. Gordon, The Integrals of Lebesgue, Denjoy, Perron and Henstock, Graduate Studies in Mathematics, Volume 4, American Mathematical Society です。
予備知識としては, [a,b]-->R なる関数の Riemann 積分と Lebesgue 積分について 知っていれば十分だと思います。
発表者:田所 勇樹 氏
内容: リーマン面(種数は g で固定)のモデュライ空間を調べる上で、 重要な役割を果たすものの一つとして、写像類群があります。 有名事実として、Q係数ではこの2つのコホモロジー群が 同型であることが知られています。 今回は、写像類群が有限生成で その具体的な生成元が Dehn twist で与えられることに着目します。
1.超楕円曲線(球面の2重分岐被覆)の写像類群が Braid群で 記述できること(正確な表現ではない)。
2.一般のリーマン面の写像類群が 3g-1 個の生成元を持つこと。
3.2のより精密な結果で、実は 2g-1 個で十分でこれ以上減らせないこと
以上の少なくとも一つは、いくつかの事実を仮定して、証明する予定です。
予備知識について
種数 g の閉曲面、同相写像、イソトピー、基本群の定義は 知っておくと良いでしょう。
発表者:松岡 拓男 氏
内容: トポロジーにおける基本的な問題の一つは、 ある与えられた写像が拡張できるか、 あるいはリフトできるかに答えることです。 ホモトピー群、コホモロジー群といった代数的な不変量を用いて、 このような問題を代数的な問題におきかえられるというのが、 代数的トポロジーという数学の発端と言えるでしょう。 このホモトピー群とコホモロジー群を用いると、 写像を拡張、あるいはリフトするため障害を捉えることができるというのが、 今回ご紹介する障害理論で、 初期の代数的トポロジーにおけるもっとも基本的な結果の一つです。
目次
1.ホモトピー論からの準備
2.障害理論
3.応用
予備知識
1と2ではホモトピー群の定義とホモトピー完全系列の存在を仮定します。 ただし、「そんなものか」と認めていただければかまわないので、 知らなければ絶対に分からないというほどのものではありません。 1と2では、みなさんを飽きさせない程度には証明をつけ、 かなり self-contained に近くなるように話せると思います。
3はベクトル束の定義(できる限り構造群を含めて)を知っていれば 大筋は理解できるようにしますが、self-contained には話せないと 思います。
発表者:伊藤 哲史 氏
内容:いわゆるAtiyah-Singerの指数定理は,最初,Thom, Hirzebruchの仕事を 踏まえて,Atiyah-Singerによってコボルディズム理論やK理論を用いた 証明が与えられました.これは,Gauss-Bonnetの定理やHirzebruch- Riemann-Rochの定理,Hirzebruchの符号定理といった様々な定理を含み, まさに20世紀の幾何学の集大成とでも言うべきものです.
その後,いくつかの別証明や,物理学の立場からの「説明」が知られて いましたが,1980年代になって,物理学者のWitten, Alvarez-Gaumeらの 超対称性のアイデアに基づいた証明が,Getzlerによって得られました.
今回の「何でもセミナー」では,この,
「熱方程式を用いたGetzlerの証明のアイデアを3時間で解説する」ことを目標にします.
細かい証明にはこだわらず,指数定理が,熱方程式という一見何の関係も 無い対象と結びつき,見事に証明される様子を解説したいと思います.
・内容
(1) 指数定理とは何か?
(2) Clifford代数・Dirac作用素を用いた定式化
(3) なぜ,熱方程式か?
(4) 熱核とその漸近展開
(5) 調和振動子とMehlerの公式
(6) 「スケール変換」と指数定理の証明
・予備知識
予備知識としては,学部で習う程度の多様体論,微分幾何の基礎を仮定します. 「参考文献」の[1]の1冊目+2冊目の前半程度です.
具体的に項目を挙げると,次の通りです.
(1) 多様体,ベクトルバンドル,微分形式の定義
(2) 計量,接続の定義,Riemann多様体,Levi-Civita接続の定義
(3) de Rhamコホモロジーの定義
(4) 曲率形式の定義,特性類の曲率形式を用いた定義
(5) ラプラシアンの定義,Hodgeの定理のステートメント
こう書くと多いように見えますが,ほとんどが「定義」ですので,それほど 無茶な要求では無いと思います.
なお,多様体上の解析学(Sobolev空間,Hodge分解,スペクトル分解,...) やClifford代数・Dirac作用素については,特に予備知識が無くても 理解できるように心がけます.
・参考文献
[1] 森田茂之, 微分形式の幾何学1〜2, 岩波講座現代数学の基礎, 岩波書店
[2] 古田幹雄, 指数定理1, 岩波講座現代数学の展開, 岩波書店
[3] 吉田朋好, ディラック作用素の指数定理, 共立講座21世紀の数学, 共立出版
[4] J. W. Morgan, サイバーグ・ウィッテン理論とトポロジー,二木昭人訳,培風館
[5] J. Roe, Elliptic operators, topology and asymptotic methods, second edition, Longman
[6] E. Getzler, A short proof of the local Atiyah-Singer index theorem, Topology, 25, 111-117, 1986
・言い訳
指数定理の周辺にはあまりにも多くの題材がありすぎて,あれこれ手を 付けると時間をかけた割には,結局何も説明していない,ということに なってしまうような気がします.
本来は,代数幾何・数論的Riemann-Rochの定理・ゲージ理論への応用や, コボルディズム,K理論,不変式論との関係,超対称性・経路積分などの 物理学的な背景,といった興味深い話題にも触れるべきでしょうが, これらについて解説することは,能力的にも時間的にも無理なので, 今回は触れません.他に適任者がいると思いますので,今後の発表に 期待することにします.
発表者:吉田 輝義 氏
内容:昨年は虚数乗法論の第一主定理 (特異モジュラス=楕円モジュラー関数の特殊値へのGalois作用) の証明までを扱ったので,次は第二主定理ということになります. こちらはモジュラー関数でなく楕円関数(とくに虚数乗法を持つもの)の 特殊値(等分点)を調べるもので, この部分は今ではDeuringの純代数的証明がTaniyama-Shimuraによって一般化され, 代数幾何学を使って整理された形になっています. しかしこの理論は,もとはGaussが20歳のときに レムニスケート曲線の弧長の5等分を作図できることを発見したことに 起源を持つとても歴史の古い数学で, それどころか実は複素解析・Galois理論といった 現代数学の基礎理論の最初の動機づけとなった問題なのです. その歴史的な面白さを無視して語るのは まことにもったいないといわざるを得ませんので, 今回は(まだ発表者が現代的な形で発表する能力がないこともありますが) 歴史的導入のお話を中心に紹介したいと思います.
0.Introduction
1.レムニスケート積分
2.楕円関数のRiemann面と楕円曲線
3.等分点とAbel方程式
4.第2主定理
歴史に関する参考文献:
高木貞治『近世数学史談』
C.L.Siegel "Topics in Complex Function Theory", Chapter 1
一般的な参考文献(いつも同じですが):
S.Lang "Elliptic Functions"
G.Shimura "Introduction to Arithmetic Theory of Automorphic Functions"
1/24, 1/31 タイトル:Gillet, SouléによるSerre予想の証明の紹介
発表者:萩原 啓 氏
内容:J.P.Serreはその著 "Algèbre Locale - Multiplicités" に於いて、 正則局所環上にある二つの閉部分スキームの 交わり具合を表す量(交差重複度)を定義しました。 しかしその定義は純代数的である為、 直観的又は幾何学的には成り立って欲しい性質が必ずしも明らかではありません。 今回は、その時Serreが残した予想の一つである消滅予想の、 H.GilletとCh.Souléによる証明を紹介したいと思います。
消滅予想とは、大雑把な例で述べれば、 3次元内では1次元のもの同士の交点重複度は0であろう、という予想です。 この予想の証明はGillet-SouléによるものとRobertsによるものとが 知られていますが、前者の特徴は代数的K-理論の一般論を巧みに操る点です。 その為、専門外の人には多少分かりづらいところがあります。 そこで今回はK-理論の紹介も兼ねて極力少ない予備知識の下で 彼らの証明を解説したいと思います。
予定
1: 導入、古典的な代数的K-群の復習
2: λ-環とAdams作用素
3: 相対的K-群の定義
4: 単体的Abel群、Dold-Puppe対応
5: Serre予想の証明
予備知識としては、 基本的な代数、位相及びホモロジー代数(河田先生の本程度)の知識に加え、 スキームの定義(例えばR.Hartshorne "Algebraic Geometry"の69ページから74ページまで位)を仮定します。 しかし、スキームの定義を知らなくても、話の流れを追うことは十分可能だと思います。