2000 年のなんでもセミナー


4/5 タイトル:調和積分論

発表者:伊藤 哲史 氏

内容:複素多様体上の調和積分論,Hodge理論の定式化と証明


4/20 タイトル:特異点解消

発表者:三枝 洋一 氏

内容:曲面特異点の解消例


4/27 & 5/11 タイトル:代数曲面の分類(1)

発表者:永井 保成 氏

内容:双有理幾何における問題設定は常に次の形を取る:

第1 MMP(極小モデル問題)

第2 (MMPの完成を前提とした)極小モデルの構造問題

それぞれの問題に対応する(高次元双有理幾何の)定理が

第1 錐定理(+flipの存在)

第2 アバンダンス

である. このような問題意識の出所は当然代数曲面論にある. 今回の発表では,高次元双有理幾何学の「おもちゃ」としての 代数曲面論を高次元双有理幾何の観点から取り扱う. 『代数曲面の分類(1)』では,上に記した「第1」の場合に取り組む. 主定理は,錐定理の系である次の定理である:

定理 Xを非特異射影代数曲面とする.このとき,次のいずれか1つ, しかも,ただ1つだけが成り立つ:

(1) K_X が nef

(2) X は非特異射影曲線上の P^1 -束

(3) X は P^2 と同型

(4) X は (-1) - 曲線 C を含む.このとき,非特異代数曲面Y への 双有理射 f:X\to Y が存在して f(C) は1点 P であり, f は P での1点爆発に射として同型

発表の構成としては,基礎的な概念を復習した後,錐定理をのべ, これを仮定して上の定理を証明する.時間に余裕があれば 標数0での非特異射影曲面における錐定理の証明を述べる.


5/18,25,6/1,22,29 タイトル:非可換幾何入門

発表者:勝良 健史 氏

内容:最初はBanach空間の定義や、双対空間の定義など簡単なところから 始めるつもりです。 予定している内容は

といった感じです。他の分野への応用にはそんなに触れることができないと 思うので、興味のあるかたは、僕のセミナーのあとにでも Connes のふっとい 本でも読んでください。そして、教えて下さい。


6/8 タイトル:非可換類体論入門

発表者:吉田 輝義 氏

内容:何かにつけて類体論類体論と叫んでいるように思われている私ですが,今回は次のような事情を考慮しました:

(1) 類体論は,現象が簡明なのに,formulationの複雑さによって近づきがたいものとなっている.

(2) 聴衆は,この分野の初学者,ぼくのゼミを聞いてくれた皆さん,そして数論 専門の院生,という範囲にわたるようだ.

そこで,「類体論とは何か?」ということをみんなで考えよう,という趣旨で,

(A) 初学者の方には,類体論が実に直観的で簡明な現象から出発していることを知ってもらう.

(B) ぼくのゼミを聞いてくれた皆さんには,基本的な現象に立ち戻ると同時に,「結局類体論は何を記述するのか」ということを一緒に考えてもらう.

(C) 専門家の方には(もしいらっしゃればですが),いくつかの具体例から,「非 可換類体論とはどのような理論であるべきか」「どこが本質なのか」を考えるきっかけにしてもらう.

という目標にします.以上のような趣旨で,技術的なformulationはなるべく抜きにして,具体例に密着して類体論を紹介することにします.

[主な内容]

1.x^2+y^2=pと第一補充則.

2.x^2+5y^2=pと\Q上の類体論.

3.類体論のいろいろな見方----素イデアル分解の法則,有限体上の1変数多項式の 因数分解,Spec ZのAbel被覆,Galois群の1次元表現,類体の構成と方程式論としての類体論,・・・・

4.x^2+23y^2=pと非可換類体論----五角数定理と非可換相互法則

5.Fermat予想と非可換類体論----Eichler-Shimuraの相互法則

(4.は「数学の楽しみ;フェルマー以後の数論」に出た藤原先生の「非可換類体 論」の一部の解説になりそうです.5.はほんとうに「お話」です.) 4.5.になじみのない方に補足説明をすると,4は非可換Galois拡大における素イデアル分解の法則には自然に保型関数論が現れるというお話です.5は,保型形式の うち最も分かりやすい(ある種の閉Riemann面上の微分形式と考えられる)ものが非可換類体論の一部を記述する(谷山−志村予想)というお話です.(プロ向け注:Artin表現のほうはΓ_1(N)のweight 1,Eichler-Shimura( l 進表現)はΓ_0(N)のweight 2です.Artin表現のほうはdihedral,つまりinducedな場合だけです.要するにHeckeです.これ以上の具体例なんてぼくには出せません・・ ・)

願わくば,表現論,代数幾何などへの数論からの視野が見えるような発表にしたいで す. みなさん気軽に聞いてください.


6/15 タイトル:有限体上の方程式の根の個数について

発表者:山本 修司 氏

内容:この発表では,以下のような内容を予定しています.

1.有限体k係数のある種の方程式を考え,kやその拡大体における解の数を数える.

2.合同ゼータ関数を定義し,1.の結果をもとに,その有理性,関数等式,および零点の実部に関するRiemann予想の類似を示す.

実際にやることは要するに数を数えるだけですから,たいした予備知識は必要ではありません.一応

などを仮定しますが,証明しない事実を用いるときは一言断るつもりです.(なんだか文体が河東先生みたいになってしまいました.なぜ?)

恐らく誰でも聞ける話になるはずですので,気軽に来ていただきたいと 思います.


7/6&13 タイトル:複素構造の変形

発表者:萩原 啓 氏

内容:小平邦彦,D.C.Spencer両氏によって始められた複素構造の変形理論の解説を行います.

複素多様体の複素解析族,小平-Spencer写像などの用語の定義をした後, 一連の主定理を紹介します.例中心のsurvey的なものにするつもりです. 証明の詳しい所までは踏み込まない(踏み込めない)予定です. 基本的に,

がネタ本なので,その後の発展状況についてはあまり触れられません.

予備知識としては,

  1. 複素多様体の定義,接空間の定義 等については,多様体のそれを知っていれば C^∞ 級が正則に 置き換わったという程度の認識でも良いと思います
  2. 層係数コホモロジーは仮定して話を進めるつもりですが, 知らなくても雰囲気が伝わるようには心掛けるつもりです. そうは言っても,知っているにこしたことはないと思います. (層係数コホモロジーについては,上に挙げた小平「複素多様体論」 に必要なことは書いてあります)

9/7 タイトル:半安定還元定理とその周辺

発表者:伊藤 哲史 氏

内容:半安定還元定理(semi-stable reduction theorem)は、数論幾何や代数幾何に おいて、特異点解消定理と並んで、もっとも基本的かつ重要な未解決問題の 一つです。現在では、半安定還元定理には様々なアプローチが知られており、 その全てを解説することは、時間的にも私の能力的にも、不可能です。 そこで、今回は、初学者を対象に、半安定還元定理への入門的な説明を試み たいと思います。できるだけ代数多様体やスキームなどの抽象的な言葉を使 わずに、具体例を中心に説明していく予定です。 とはいうものの、全く証明しないのは心苦しいので、2回に分けて、第1回は 定理の紹介と楕円曲線の場合の例を中心に説明し、第2回は半安定還元定理 が一般的に解決された最初の場合である、代数曲線の場合の証明を中心に 説明したいと思います。 ですから、一般次元の代数多様体に関する結果については、完全に「お話」 になってしまうと思います。これについては、今後、機会があれば、話す かもしれません。 予定は、以下の通りです。

第1回

1. 半安定還元定理の紹介、どこまで分かっているのか?

2. 例 : 楕円曲線の場合

3. 半安定還元定理の幾何的な意味、モノドロミー作用との関係

第2回

4. モノドロミー定理

5. アーベル多様体の場合、Neron-Ogg-Shafarevichの判定法、 半アーベル還元定理

6. 代数曲線の場合の半安定還元定理 (Deligne-Mumford)

予備知識ですが、少なくとも第1回は、楕円曲線の群構造についての簡単な 知識があれば、理解できるようにするつもりです。具体的には、 1. 楕円曲線 E : y^2 = x^3 + ax + b (a,bは整数) の有理点が群を なすこと。 2. Eの判別式が素数pで割れなければ、係数を mod p することで、 有限体 F_p 上の楕円曲線 E mod p が得られること。(良い還元) 3. Eの判別式が素数pで割れるときでも、E mod p の F_p 有理点は群構造 を持ち、その群構造は、右辺 mod p が、2重根を持つ場合は乗法群に なり(乗法的還元)、3重根を持つ場合は加法群になること(加法的還元)。 を、"事実として"知っていれば、十分です。 参考文献としては、岩波の「数論1」や、SilvermanとTateの本「楕円曲線論 入門」、あるいはK会の「楕円曲線2」のテキストに書いてあること程度で 十分だと思います。(どうしてもちゃんと予習したい人は、Silvermanの英語 の本の第7章でも読んでおいてください) 第2回については、さすがに予備知識を仮定しはじめるときりがないので、 必要に応じて説明する、という感じにする予定です。


9/21 タイトル:標数pにおける孤立巡回商特異点

発表者:高木 俊輔 氏

内容:複素数体上の多様体の特異点についてはかなり研究が進んでますが, 標数pの閉体上の多様体の特異点については未だほとんど知られてません.そこでもっとも簡単かつ古典的な特異点である巡回商特異点を例にとり,標数p特有の現象について見てみたいと思います.説明を簡単にするために孤立特異点を主に扱うつもりです.

予定 1.商特異点の定義と基本的性質

2.巡回商特異点とCohen-Macauly性

3.巡回商特異点とfactoriality

4.例

予備知識 そんなに難しいことは喋らない(れない)ので, 基本的に3年生の代数学の知識があればわかると思います.具体的には

1.群,環,体についての基本的な知識(3年生の代数学程度)は仮定します. Cohen-Macaulay ring,UFDや正則環の定義や基本的性質は 必要に応じて説明するつもりです. 予習したい人は,松村英之著「可換環論」(共立出版)などで 定義くらい見ておくと良いかもしれません.

2.群のコホモロジーの基本的性質も使いますが, これも説明します. 定義,証明などを詳しく知りたい人は Serre,Corps Locauxなどを見てください. もしくは賢い整数論専攻の方に聞いてください.


9/28 タイトル:虚数乗法論の紹介

発表者:吉田 輝義 氏

内容:今回は,何でもゼミの精神にのっとり,あまり整数論特有の興味に没することなく,現代数学の古典,数学者の一般 常識としての虚数乗法論の紹介をします.

0次元代数幾何学とは一変数方程式論ですが,これは複素数体上では自明ですので,一般 の体の上で考えます.これは与えられた体の絶対Galois群を決定する問題で,有限体なら$\hat{\Z}$です.一変数Abel方程式論は,絶対Galois群のAbel化を決定する問題で,有理数体なら$\hat{\Z}^\times$です(Kronecker-Weberの定理).

高次元の代数幾何学は,普通は複素数体上で考えますが,これを『多変数方程式論』と言いかえれば,一般 の体の上で考えることができます.実は,2次体上の一変数Abel方程式論を考えると,すでにこの多変数方程式論が自然に現れるのです(モジュラー方程式).これが虚数乗法論です.つまり,19世紀末に複素代数幾何学が発展しはじめるのと同じ頃,すでに一般 の体上の代数幾何学は産声を上げていたのです.

虚数乗法論は,「Kroneckerの青春の夢(Jugendtraum)」として有名ですが,今の用語では,CM(complex multiplication)楕円曲線のj不変量・等分点によって虚2次体のAbel拡大を生成する『explicitな類体論』です.この問題を最初に解決した高木貞治の言葉を借りれば,19世紀数学における『整数論代数学および函数論の最高部門の交錯する数学のEl Dorado』だった理論だそうですので,何とかその面白さを解き明かしてみたいと思います.

前回の私の発表では類体論の整数論的な(素イデアルの分解法則としての)動機づけを重視したので,今回は視点を変えて,一つは有理数体上のKronecker-Weberの定理と同じ『Abel方程式論』として,もう一つはモジュラー曲線の有理点の間の合同式としての『一般 の体上の代数幾何学の夜明け』としてとらえることで,この古典理論の意義と美しさを考えてみようと思います.

未来への展望は,もちろん谷山・志村・Weil・Deligneらによるモジュラー曲線から一般 の志村多様体への拡張とLanglands Program(非可換類体論)への布石,ということになり,いまだに『整数論,モジュライの代数幾何学および代数群の表現論の最高部門の交錯する数学のEl Dorado』でしょうが,そこまで解説する能力はありません.

時間が2時間半と限定されていますので,厳密な証明は期待しないで気楽に聞いてください.

予備知識:Galois理論までの代数の知識と,複素函数くらい?

の二つから話が始まります.

参考文献:


10/5 タイトル:素数定理の初等的証明

発表者:斎藤 新悟 氏

内容:素数定理(\lim_{x\to\infty}\frac{\pi(x)\log x}{x}=1)は, Gauss(1792)と Legendre(1798)によって独立に予想され,1896 年に,Hadamard と de la Vall\'{e}e Poussin によって独立に証明されました。 彼らの証明は複素解析を使ったものでしたが, 1949 年に,Selberg と Erd\"{o}s によって,初等的な(複素解析を使わない)証明が得られました。

今回のゼミでは,Nathanson『Elementary Methods in Number Theory』(GTM 195)の力を借りて,Selberg の原論文とほぼ同じ証明を行います。もちろん,論文では well-known ですまされている命題も,きちんと証明します。

予備知識は,高校範囲の微積分 +\alpha です。+\alpha は,具体的には,

くらいです。上の2つは説明しませんが,Landau の記号の定義はします。2 番目は,具体的には,\int_{2}^{3}[x]dx=\int_{2}^{3}2dxのようなものです([x] は x 以下の最大の整数)。

すべての内容は TeX にして,当日配付する予定です。Asymptotic formulae の証明たちには,似たようなものがいくつかあるので,時間と飽き具合を考慮しつつ,適当に省略するかもしれません。


10/12 タイトル:大域Torelliの定理が成り立たないCalabi-Yau 3-foldの例

発表者:永井 保成 氏

内容:今回は、高次元代数幾何において双有理幾何とモジュライ問題の複雑なかかわり合いについて、Calabi-Yau 3-foldを通して少しお話したいとおもいます。必然的に、話は``マニア向け''になってしまいますが(なんでもぜみの主旨に反するとの批判も聞こえてきそうですが)、気分だけでもわかっていただけるよう努力したいと思っています。

さて、代数多様体の分類においては、数値不変量による分類と、数値不変量を固定した上での分類があり、間違いを恐れず言うならば前者は双有理幾何における分類、あるいは、位相的な分類であり、後者をモジュライ問題であると言うことができます。

曲線の場合は、双有理幾何は存在せず、重要な数値不変量は種数 g です。種数 g(>1)の代数曲線は 3g-3 次元の複素パラメータをもつ同型類の集合(モジュライ空間)を持ちます。

曲面の場合は、極小モデルの理論によって、数値不変量を固定することと双有理幾何はほとんど同じことになります。たとえば、Kodaira次元κ=0 かつ単連結な極小代数曲面をK3曲面と言いますが、そのモジュライ構造はとても良くわかっています。実際、任意の2つのK3曲面は変形でつながることが知られています。 曲線の場合も曲面の場合も、とくに、K3曲面の場合は、Torelli型の定理と呼ばれる定理がモジュライ構造の理解に対して決定的な役割を果たします。

しかし、Calabi-Yau 3-fold においてはモジュライと双有理幾何が密接に関係していることが知られています(Crepant-BlowupとReid fantasyなどが有名です)。

今回は、flopとモジュライの関係を調べることで、K3曲面ですばらしい役割を演じたTorelli型の定理がCalabi-Yau 3-foldでは一般になり立たないことを説明しようと計画しており、そのことが、高次元代数幾何の一つの(非常に狭い視点からの)surveyになるように念じています。

目次

I. Hodgeの定理の簡単な復習

II. Torelliの定理の簡単な(ラフな)解説

III. Calabi-Yau多様体とその簡単な例

IV. Flopの定義と性質の簡単な解説

V. Torelliの定理の成り立たない例


10/19 タイトル:ヘンゼル局所環について

発表者:伴 克馬 氏

内容:初学者であるところのわたくしには,たとえば≪数論とは何か≫ というような哲学的な教義が欠けておりますので,これから扱う ≪ヘンゼル環≫の理論について,この場で皆さんに紹介するこ とについての弁明は,あからさまに放棄させていただきます.

代数的整数論の中心的な対象であるデデキント環を扱うことを 考えてみましょう.可換環論の代表的な技術である≪局所化≫は,問題を離散付値環に帰着させることができます.しかし,次にデデキント環の整拡大という状況を考えてみると,局所化のみでは問題を十分に還元することができません.これは離散付値環の整拡大が,局所環に留まらずに一般 には半局所環になることによります.つまりこの場合,上の環は局所化されていないわけです.この状況を還元する典型的な技術として≪完備化≫があります.完備離散付値環の整拡大は,再び完備離散付値環となり,問題は十分に簡易化されます.

さて,背伸びをしてみましょう.代数幾何学では,完備化は問題を十分に局所的にすることを意味します.完備局所環の≪被覆≫で,剰余体が拡大しないものは,自明なものしかありません.この状況では,≪被覆≫は剰余体の性質を表わしていることになります.

しかしながら,完備化は代数的ではありません.超越元をたくさん含み,解析的な対象となります.これを代数的に近似する,というのが≪ヘンゼル局所環≫の理論になります.

ヘンゼル局所環の整拡大は再びヘンゼル局所環となり,先の代数的整数論の場合に望んでいた状況は,ここで達成されていることが分かります.完備化までいくことなく,≪ヘンゼル化≫によって問題は十分に還元できるわけです.また,自明な≪被覆≫しか持たない,という意味で問題を局所的にするにも,完備化まで拡大する必要はなく,≪ヘンゼル化≫で足ります.

このゼミでは,ヘンゼル局所環の定義からはじめて,ヘンゼル化がどのようにして得られるかということの考察,ヘンゼル化の構成,ヘンゼル局所環の基本的な性質,を紹介したいと思います.

予備知識,証明について

ヘンゼル局所環の考察では,≪被覆≫に関する性質が重要な役割を果たします.したがって,エタール代数についての性質を湯水のように用いる事になります.これは,わたくしの能力からしても避けるべきと思われますので,可換代数の基礎程度を仮定するにとどめ,多くの証明は省くことにいたします.エタール代数については,ヘンゼル化の構成の中で必要となるような性質については,紹介します.


10/26&11/2 タイトル:Freyd-Mitchell Embedding Theorem(1964)

発表者:オトゴー 氏

このゼミでは上記の定理の証明を通してアーベル圏について学びたいと 思います。

一般のアーベル圏では元を取ることができないため簡単な補題でも証明するのは難しいです。しかし、Freyd-Mitchell Embedding 定理によって任意のアーベル圏はfully abelianであるのでアーベル圏内の殆どの理論は加郡の理論に帰着されます。実際、すべての加郡の圏で成り立つfull compound diagrammatic statement(例えばFive lemma, Snake lemma etc) はすべてのアーベル圏で成り立ちます。(full metatheorem)

予備知識は殆ど要りません。アーベル圏の定義、基本的な性質を知っていれば十分だと思いますが Grothendieck category (AB5), Yoneda embedding などを知っていればもっと分かりやすいでしょう。


11/9 タイトル:スキームの変形理論

発表者:三枝 洋一 氏

今回のセミナーでは,スキームの変形理論のうち最も基本的な部分について説明したいと思います.

変形理論とは,大雑把に言えば次のようなことを調べる理論です.

Y : スキーム(あるいは複素多様体),Y_0 : その(閉)部分スキームとしたとき,Y_0上定義されたスキームはY上に伸ばせるか? もし伸ばせるとしたら,その伸ばし方は(同型を除いて)どれくらいあるだろうか?

特にYとY_0の底集合が同じ場合,「無限小変形」と呼ばれており,このような場合を中心に考えていきます.

ところで,このセミナーでは基本的にsmoothな場合しか扱いません.smoothな場合はlocalには無限小変形があるのであとはそれを貼り合わせればよいのですが,その貼りあわせがうまくいくかどうかはtorseurの理論を使うと見通 しよく議論できます.特に,なぜ障害として2次コホモロジー類が現れるのかということが複素多様体の議論と比べて非常に分かりやすいと私は感じました.

以前の萩原さんによる「複素構造の変形」の際には,座標近傍の貼り合わせ写像を微分したものとしてKodaira-Spencer写 像が現れましたが,そのKodaira-Spencer写像についても「違った切り口」から議論してみたいと思います.

発表者の力量・知識不足ゆえ,本質的な例を挙げることは難しく,証明主体の発表になってしまうことは免れません.ただ,高級な知識を振り回すことは避け,できるだけ素朴な形での説明をするよう心がけるつもりです.

目次

0 intro

1 etale morphism, smooth morphism についての簡単な説明

2 etaleの場合の無限小変形

3 smoothの場合の無限小変形

4 proper smooth curveへの応用(Witt ringを用いたlifting)

5 smoothでない場合のdeformation(Schlessinger theory)

5は時間が許せば参考程度に軽くやりたいと思います.

予備知識

基本的には易しいスキーム論のみ仮定します.etale射,smooth射についてはある程度説明する予定ですので,Hartshorneの2,3章程度を知っていれば十分だと思います.なお,etale射,smooth射については Revetements Etales et Groupe Fondamental のExpose I,II を参考にしました.また,今回の発表内容は上の本のExpose III そのものです.

参考文献

Revetements Etales et Groupe Fondamental, Grothendieck et al. (Springer LNM 224)

Moduli of Curves, Harris, Morrison (Springer GTM 187)

Functors of Artin Rings, Schlessinger

Elements de Geometrie Algebrique III , Grothendieck, Dieudonne (Publ. Math. IHES 11,17)

複素多様体論, 小平 邦彦 (岩波書店)


11/16 タイトル:Hensel局所環 (続き)

発表者:伴 克馬 氏

前回は,hensel環を冪等元の持ち上げという観点から特徴付け,etale代数の極限としてhensel化を得るということを話しました.hensel化の場合,すべての剰余体が拡大しないような有限etale代数で極限を取ったのですが,この制限を外して剰余体の拡大も許すと,剰余体についての情報はなくなり,真に幾何学的な局所化を得ることができます.これはstrict hensel化と言われ,代数幾何学で位相的な情報を得る場合には重要な概念となります.

今回は,このstrict hensel化を定式化し,その性質を紹介します.(strict hensel化もind-local-etale代数なので,hensel化の性質として前回紹介したものは,strict hensel化でも同様に成立します)

また,前回の補足として,正規局所環のhensel化,strict hensel化について調べてみましょう.完備化の性質として著しいものの一つに,代数的整数論で見た,完備離散付値環の整拡大は再び完備離散不値環になるというものがありました.この場合,局所環の整拡大が再び局所環となっています.hensel化は完備化を代数的に近似したものだ,と考えれば,当然この性質が成り立っているかどうかには関心が向けられます.例えば Z_(p) のhensel化の整拡大は再び局所環となるのでしょうか.

実は永田がHensel化を定義したときには,この観点に立っています.名著Local Ringsで局所整域のHensel化は,感覚的に言って≪極大イデアルが分解し尽くした環≫として定義されます.Hensel化の理論は永田によって構成され,例えばLocal RingsでのHensel環の節の主たる結果は悉く永田によって示されています.今回の発表は,この永田の定義への回帰を以って予定調和のうちに終りたいと思います.(永田のhensel化の定義なんて知るか,という空耳が聞こえますが)

前回のゼミの内容は基本的に予備知識となるでしょう.また,後半の議論についてはGalois理論についての知識が必要になります.分解群,惰性群,といった言葉を知っていれば十二分の知識があるといえます.予習をしたいという奇異な方にはBourbaki,Alg.Comm.,Chap.V,§1,n゜9,同じく§2をお薦め致します.さらに,暇な方はAlg.Comm.,Chap.V,§1,exer.13を見てみましょう.


11/30 タイトル:Σn=1 n3=1/120 が出てくる物理

発表者:立川 裕二 氏

最近数学の一部では場の量子論(その一部としてひも理論)が よく登場するようです。 無限大がそこらじゅうにでてきて困るという話を聞いたことのあるひとも いるでしょう。

今回はその一例として、カシミール効果を取りあげます。 カシミール効果とは、 真空中に微小な距離 a を隔てておいた二枚の金属板のあいだに、 単位面積あたり (π2/240)(h/2π)c/a4の引力 (h はプランク定数、c は光速) が働くというもので、実験的に検証されています(1997)。

それを理論的に計算する際に、 発散する級数Σn=1 n3を ζ(-3)=1/120でおきかえるという操作をします。 この事実は数学者の書いた「ぜーたの世界」系の文章のどこかで mention されていたように記憶していますが、 物理学者はこの効果におけるぜーたの意義をどう考えているのでしょうか。

残念ながらカシミール効果の場合は発散級数が出てこないような 数学的にも物理的にもよりまともな計算法が知られていますが、 滅茶苦茶な計算法しか(僕に)知られていない現象もあります。 今回お見せするカシミール効果のいろいろな計算法を通じて、 物理的によりまともな計算方法を探している 僕の苦悩が伝われば幸いです。

数学の予備知識として、

には覚悟しておいてください。 物理の予備知識はほとんど何も仮定しないつもりです。 知らない言葉を口走ったらすかさず質問してください。

講義のレジュメを http://www12.big.or.jp/~yujitach/casimir.tex においてあります。参考にしてください。